特典④『雨とピアノとハムスター』

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 俺が……好きな、曲?  音芽(おとめ)がピアノを弾きながら、小さな声で「Look into my eyes」と歌詞を口ずさんだ時、俺は全身にぶわりと鳥肌が立つのを感じた。  間違いない、これはブライアン・アダムスの『I Do It For You』だ。  でも何で音芽がこれを?  俺、この曲好きだって話したことあったっけ。  いや、そもそもあれか。  俺がここにいることを音芽は知らないわけだし……だとするとこれは俺のための演奏ではないわけで。 「偶……然……?」  思わずポツンとつぶやいてから、気がつくと俺は音芽の方へ歩み寄っていた。  ピアノを弾く音芽のすぐ横に立ったら、譜面に影がさして音芽の手が止まる。  俺を認めた途端ブワッと真っ赤になって、恥ずかしそうにうつむいた。 「や、やだっ。温和(はるまさ)っ、いつから!?」  ソワソワして聞いてくるのへ、「少なくともこの曲が始まった時には」と答えたら、音芽がますます小さく縮こまって照れる。 「すぐに声、かけてくれれば良かったのにっ」  ややして恨み節のように頬を膨らませて俺を見上げると、「もうヤダ〜。ホンット恥ずかしいっ!」と顔を覆ってしまう。 「俺、お前の歌声すげー好きだけどな?」  ピアノの腕前もさることながら、俺は音芽の、空間全体をやんわり陽だまりの中に包み込むような、そんな暖かな歌声に思わず我を忘れてしまったのだ。  気がつけば、もっと近くで聴きたい、と彼女のそばに引き寄せられてしまっていたほどに。
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