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「あ、あのねっ、私……ピアノは恋の駆け引きに使いたくない派で……」
いきなり音芽が俺の目を見てそう言ってきて、何のことだろう?と思う。
「え?」
それで思わずそう聞き返したら、「ほら、だってカナ兄が……」って苦笑する。
その表情を見て「ああ」とやっと得心がいった。
音芽は奏芽がピアノをだしに異性を引き寄せていたのが気に入らなかったわけだ。
そう思ったら、見た目は割と似ているくせに、中身は何て対極的な兄妹なんだろう、って思った。
「お前が人前でピアノ弾かなくなったのって……」
つぶやくように言ったら、音芽が小さくうなずいた。
奏芽のヤロー、妹に変な気、遣わせるんじゃねぇよ。
思ったけれど奏芽の所業を知っていて止めなかったのは俺も同罪だし、音芽がピアノを弾かなくなったことにそんな理由があったと思い至れなかったのは俺自身のミスだと反省する。
「悪かったな」
思わずそう言ったら、音芽がきょとんとした顔をした。
「何で……温和が謝るの?」
確かにそれはそうか。
そう思いはしたものの、上手く説明できる気がしなくて「いや、まぁ」と茶を濁す。
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