甘いお誘い

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***  鶴見(つるみ)先生には、車中で温和(はるまさ)との関係について当たり障りのない範囲で説明をした。  小さい頃からの知り合いで、幼なじみというか……実兄とは別の、もう一人の兄のような存在だと。  私からの、長い長い一方的な片想いについては、面倒なので言わずにおいた。  パンケーキを食べに行った時、鶴見先生から恋愛相談を受けたら、私のもその流れで話そう。  そう思いつつ。 「今日はありがとうございました。ハル(にい)……、えっと、霧島(きりしま)先生と少し距離を置きたかったので助かりました。――週末、楽しみにしていますね」  結局アパート入り口のところまで荷物を運んできてくれた鶴見先生に、丁寧にお礼を言うと、私は最後にパンケーキデート?のことをついでのように付け加えてニコッと微笑んだ。  社交辞令、社交辞令。  温和(はるまさ)相手でないと、割とこう、ちゃんと笑顔で人付き合いができる気がする。  やはり温和(はるまさ)がつんけんしてるから売り言葉に買い言葉になってしまうだけなのよ、うん。  笑顔のまま片手を上げて――しばしそのままの姿勢を保ってみたけれど、動きのない鶴見先生に、私は「なにごと?」と思う。 「……えっと、鶴見、先生?」  さっさと鍵を開けて家に入って、ベッドになだれ込みたいんだけどな?  さよなら、のつもりで告げたお礼の言葉なのに、さっきから無言で鶴見先生が動かないものだから、私は段々不安になってきた。
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