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「大我さん、子供は欲しくないって」
和音が生まれた際、お祝いに家まで来てくれたなっちゃんが寂しそうにそう言ってきたとき、私はどう答えたらいいか分からなかった。
「私もいい歳だから……半分諦めてはいるんだけどね。それでも欲しくないって言い切られると、何だか辛いね」
鶴見先生的には自分のような子供を遺したくないから、という理由みたいだけど……それってなっちゃんに対して失礼だなって思うの。
でもそれと同時に、鶴見先生が話してくれた、子供の両親どちらもが、ずっと元気でいられるっていう保証はないじゃないですか、という主張も分かるわけで。
現に、鶴見先生だって、お父様が健在でいらしたなら、きっと寂しい幼少期を過ごすことはなかったはずなの。
うちは、私や温和にもしものことがあったとしても、きっと鳥飼の方の両親やお兄ちゃん、そうして温和側――霧島の両親からのサポートが受けられる。
それは、もしもある日突然私と温和が2人同時ににいなくなったとしても――和音はみんなに守られて、すくすくと育つことができるという安心感で。
でも、母親からの愛情に恵まれなかった鶴見先生には、その確証が持てないんだと思う。
鶴見先生を可愛がってくださったお祖母さまが、なっちゃんとの入籍を見届けるようにして、鬼籍の人になられたのも大きいと思う。
児童らへの接し方を見ていると、鶴見先生は決して子供が嫌いなわけではないと思うの。
いや、むしろ好きだからこそ、そういう不安を抱えたまま、我が子を持つことに抵抗があるんだろうな。
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