甘いお誘い

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鳥飼(とりかい)さ、……いえ……音芽(おとめ)、さん」  職場の外だからかな。  いきなり先生をすっ飛ばして、さらに名前呼びされたことに私はびっくりしてしまう。 「あの、えっと。鶴見(つるみ)、せんせ……?」 「霧島(きりしま)先生とは……その、本当に何もないんです、よね?」  もしかして車中でお話したことをまだ気にしてるの?  わー、何だかちょっぴり面倒かも。 「何もないというか……。向こうはイヤみたいですけど。でもっ、どう足掻(あが)いても私にとっては……その、兄同然の人なので、切っても切り離せない腐れ縁かな?って」  口では兄とか言いながら、バリバリ異性として大好きなんですけどねっ?  心の中で付け足しながら、鶴見先生を恐る恐る窺い見る。  家まで送ってもらったのは間違いだったかもしれない。  今更だけど何となくそんなことを思ってしまう。 「鶴見先生?」  鶴見先生、さっきからずっとうつむいて表情がよく見えないから、余計に不穏な気がして……。私は玄関扉にべったり背中をくっつけて警戒した。 (これ以上後ろに下がれないのがちょっと怖いかも)  そう思ったら、自然手探りで鞄の中から玄関の鍵を探っていて。幸い大きめのマスコットを付けていたおかげで、鍵はすぐに見つかった。  私はすぐさま部屋に逃げ込めるよう、鶴見先生をちらちらと気にしながらも、何とか鍵穴に鍵を挿し込むことに成功した。  ドアさえすぐに開けられるように出来ていたら……もしもの場合は部屋の中へ逃げ込める……はず。
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