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兄たち2人に挟まれて、真ん中を歩いていた私の足の上を、大きなドブネズミが駆け抜けて行ったのを、今でも鮮明に覚えている。
思い出しただけで鳥肌が立ってしまうぐらい、怖かった!
長靴の上をネズミが踏んだ感触も、ゾクリと来るぐらいはっきりと覚えている。
***
ネズミの襲来に驚いて、悲鳴を上げて尻餅をついた私を、温和が優しく立ち上がらせてくれて。
自分が汚れるのも構わず、「大丈夫だ」って抱きしめてくれた。
私は半ばパニックで大泣きをして……それを見たカナ兄が、至極残念そうに「やめだやめだ」って探検の中止を言い渡したの。
「帰るぞ」
泣きじゃくる私に見向きもせず、さっさと家に向かって歩き出すカナ兄の薄情さに、「カナ兄、大っ嫌い!」って泣きながら叫んだっけ。
そのことをふと思い出して、私は思わず笑ってしまった。
今思えば、楽しいはずの探検の中止を言い渡して、家に帰ろうと提案してくれたのは、お兄ちゃんの精一杯の優しさだったのに。
本当、お兄ちゃんの愛情表現は分かりにくかったな。
***
「ママ?」
急に笑い出した私を訝しむ和音をギュッと抱きしめて、
「ねぇ和音。奏芽お兄ちゃんは優しい?」
って聞いたら「うん!」と満面の笑みで即答された。
「そっか……」
娘の頭を優しく撫でながら、お兄ちゃんも少しはうまく感情を表に出せるようになったかな?と思った。
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