スタ特⑥『Eight years later』

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 兄たち2人に挟まれて、真ん中を歩いていた私の足の上を、大きなドブネズミが駆け抜けて行ったのを、今でも鮮明に覚えている。  思い出しただけで鳥肌が立ってしまうぐらい、怖かった!  長靴の上をネズミが踏んだ感触も、ゾクリと来るぐらいはっきりと覚えている。 ***  ネズミの襲来に驚いて、悲鳴を上げて尻餅をついた私を、温和(はるまさ)が優しく立ち上がらせてくれて。  自分が汚れるのも構わず、「大丈夫だ」って抱きしめてくれた。  私は半ばパニックで大泣きをして……それを見たカナ(にい)が、至極残念そうに「やめだやめだ」って探検の中止を言い渡したの。 「帰るぞ」  泣きじゃくる私に見向きもせず、さっさと家に向かって歩き出すカナ(にい)の薄情さに、「カナ(にい)、大っ嫌い!」って泣きながら叫んだっけ。  そのことをふと思い出して、私は思わず笑ってしまった。  今思えば、楽しいはずの探検の中止を言い渡して、家に帰ろうと提案してくれたのは、お兄ちゃんの精一杯の優しさだったのに。  本当、お兄ちゃんの愛情表現は分かりにくかったな。 *** 「ママ?」  急に笑い出した私を(いぶか)しむ和音(かずね)をギュッと抱きしめて、 「ねぇ和音(かずね)奏芽(かなめ)お兄ちゃんは優しい?」  って聞いたら「うん!」と満面の笑みで即答された。 「そっか……」  娘の頭を優しく撫でながら、お兄ちゃんも少しはうまく感情を表に出せるようになったかな?と思った。
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