スタ特⑥『Eight years later』

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 温和(はるまさ)が家を建てるときに防音室を、と言ってくれたのを、「そんなのなくてもいいよ。電子ピアノで充分」とか言った私は、先見の明がなかったみたい。  アップライトでさえ不満な和音(かずね)が、電子ピアノで満足するとは思えないもの。  温和(はるまさ)の言うことを聞いておいて良かった。  うちの防音室にグランドピアノを入れるのはスペース的に厳しいけれど、まぁ、そこは近場に2ヵ所もグランドピアノに触れられるところがあるということで勘弁してもらおう。 *** 「お母さんもお兄ちゃんからは聞かされてなかったってこと?」  お母さんがいれてくれたアイスミルクティーを飲みながら、再度問いかけてみる。 「聞いてたらすぐ音芽(おとめ)ちゃんに話すわよ」  だよね。  現に私もすぐお母さんに話しちゃったし。 「どんな子なんだろうね?」  今まで沢山の女の子を泣かせてきたお兄ちゃんが、「本気」だと言った相手は。  すごく、気になる。  私の言葉に、お母さんが「案外真面目なタイプの子なんじゃないかなって思うのよね」って……。なにそれ、母親の勘?  お兄ちゃんは恋人に関して、どちらかというとオープンなタイプだ。  真面目に付き合っていたかどうかさえ妖しい……それこそ遊びの延長みたいな相手であっても、機会があれば私たちにあっけらかんと紹介してくれるような人だ。  相手の女性が会うたび、次々と変わっていたのは取っ替え引っ替えに見えたけれど……裏を返せば二股とかそういうのはしていなかったってことなのかもしれない。 「お母さん、お兄ちゃんって……案外義理堅かったりする?」  ふと思い立ってお母さんに何気なく聞いたら「あら、音芽(おとめ)ちゃん、知らなかったの? 奏芽(かなめ)、ああ見えて筋は通すところある子なのよ」とか。  やっぱり私は未だにお兄ちゃんのことを掴み切れていないみたいです。
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