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先月も、お兄ちゃんが和音を預かってくれたお陰で、温和とふたりきりで8回目の結婚記念日を無事にお祝いすることが出来た。
今回は結婚記念日とデートできる日が重なったこともあって、温和が「夜は“特別な店”に行こうか」って言ってくれて。
和音が生まれる前――身重の時に一度だけ一緒に記念日をお祝いしたことのある、小ぢんまりとしたあの素敵な小料理屋に、また連れて行ってくれるの!?って私、大喜びしたの。
「あまみや」は、玉砂利に浮かぶ飛び石の先に、ひっそりと暖簾が掛かったような隠れ家的なお店で。
黒々とした御影石のタイル床や、落とし目の照明、そして何よりすっごく美味しい創作日本料理が食べられる、小さいながらも最高の料亭です。
店主の雨宮さんは温和やお兄ちゃんの高校時代の同級生で、私は面識がないと思っていたのだけれど、あちらは私のことを知っていたことに驚かされたっけ。
今日も前回同様、お店に入ってすぐ、ほんの少し社交辞令込みの会話を交わした。
でも個室に入ってからは、私と温和の時間を尊重してくれて。
友人だからと滅多やたらと話しかけてきたりしない分をわきまえた人だった。
それがすごく居心地良くて。
朴訥、という言葉がぴったりの無口な人柄は、数年前に訪れた時のイメージのまんま、変わっていなかった。
そんな雨宮さんと、あのド派手なお兄ちゃんとに接点があるとか……何だかやっぱりぴんと来ないの。
お兄ちゃんは月に一度は必ず顔を出す常連客だと言うし……それって雨宮さんとも懇意ってことだよね?
お店に入ってすぐ、素直にそう言ったら、
「音芽ちゃんは昔っから鳥飼に関しては結構シビアな評価だよね」
って、温和と一緒になってクスクス笑うの。
何だかそんな風に言われてしまうと、私だけお兄ちゃんをちゃんと理解できてないみたいで、ちょっぴり悔しくて。
でも、学年がふたつ上で……在学中はほとんど接点のなかったはずの雨宮さんにも私、認知されていたってことは……ふたりが言うように、お兄ちゃん、私を周りが分かるほどに可愛がってくれていたのかな?とも思って。
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