スタ特⑥『Eight years later』

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***  先月も、お兄ちゃんが和音(かずね)を預かってくれたお陰で、温和(はるまさ)とふたりきりで8回目の結婚記念日を無事にお祝いすることが出来た。  今回は結婚記念日とデートできる日が重なったこともあって、温和(はるまさ)が「夜は“特別な店(あまみや)”に行こうか」って言ってくれて。  和音(かずね)が生まれる前――身重の時に一度だけ一緒に記念日をお祝いしたことのある、小ぢんまりとしたあの素敵な小料理屋に、また連れて行ってくれるの!?って私、大喜びしたの。  「あまみや」は、玉砂利に浮かぶ飛び石の先に、ひっそりと暖簾(のれん)が掛かったような隠れ家的なお店で。  黒々とした御影石(みかげいし)のタイル床や、落とし目の照明、そして何よりすっごく美味しい創作日本料理が食べられる、小さいながらも最高の料亭です。  店主の雨宮(あまみや)さんは温和(はるまさ)やお兄ちゃんの高校時代の同級生で、私は面識がないと思っていたのだけれど、あちらは私のことを知っていたことに驚かされたっけ。  今日も前回同様、お店に入ってすぐ、ほんの少し社交辞令込みの会話を交わした。  でも個室に入ってからは、私と温和(はるまさ)の時間を尊重してくれて。  友人だからと滅多やたらと話しかけてきたりしない(ぶん)をわきまえた人だった。  それがすごく居心地良くて。  朴訥(ぼくとつ)、という言葉がぴったりの無口な人柄は、数年前に訪れた時のイメージのまんま、変わっていなかった。  そんな雨宮さんと、あのド派手なお兄ちゃんとに接点があるとか……何だかやっぱりぴんと来ないの。  お兄ちゃんは月に一度は必ず顔を出す常連客だと言うし……それって雨宮さんとも懇意ってことだよね?  お店に入ってすぐ、素直にそう言ったら、 「音芽(おとめ)ちゃんは昔っから鳥飼(アニキ)に関しては結構シビアな評価だよね」  って、温和(はるまさ)と一緒になってクスクス笑うの。  何だかそんな風に言われてしまうと、私だけお兄ちゃんをちゃんと理解できてないみたいで、ちょっぴり悔しくて。  でも、学年がふたつ上で……在学中はほとんど接点のなかったはずの雨宮さんにも私、認知されていたってことは……ふたりが言うように、お兄ちゃん、私を周りが分かるほどに可愛がってくれていたのかな?とも思って。
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