■*ふたりならきっと平気/気まぐれ書き下ろし短編

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 梅雨が明ける前触れだろうか。  それとも天変地異でも起こる前兆か?  ここ最近全国各地でやたら記録的豪雨だの、雷雨だののニュースが取り沙汰されている。 「ねぇ温和(はるまさ)、あっちの方の空、真っ暗になってきたよ? 和音(かずね)、大丈夫かなぁ」  土曜日の昼下がり。  和音(かずね)は友人と遊びに出かけていて家には音芽(おとめ)と俺のふたりきり。  いつ娘が帰ってくるか分からないから、音芽に手を出そうにも何となく中途半端になりそうで躊躇(ためら)われて。  ――まぁ、するにしても下手に脱がせらんねぇな。  着衣のままの音芽を、服のあちこちから手を差し入れて触れるのもたまにはいい。  俺的には全部さらけ出させて羞恥心に震える音芽を責める方が好みなんだが、背に腹はかえられねぇか。  そんなことを思っていたのだけれど。  窓辺に立つ音芽に触れようと背後に立った途端、音芽が空の一角を指さして俺を振り返った。  その顔があんまり可愛くて、あごをとらえてとした愛らしい唇を塞ぐ。  クチュリと口中をかき回す様に、逃げ惑う音芽の舌を追いかけて絡めとると、舌裏を擦り上げる。 「あ、っ、はる、まさぁ……」  音芽はキスの時、ココと、口蓋(こうがい)を責められるのに弱い。  何度も抱いた愛しい妻だから、こいつの身体のことは、多分俺の方が本人よりよく知っている。  ――特に性感帯(イイところ)については、な。  そんなことを思って、俺が胸中でひとり顔にも出さずほくそ笑んでいるなんて、音芽はきっと知るよしもない。
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