■俺には正直お前の方が/気まぐれ書き下ろし短編

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温和(はるまさ)ぁ〜、見て見てーっ!」  音芽(おとめ)がキャーキャー言いながら、スマートフォンの画面を俺に向けてきた。 「すっごく可愛くない?」  見れば、キジネコの赤ちゃんがティーカップに入った画像で。  確かにぽやんとした表情と、丸っこい耳。それからパーツ、パーツの寸足らず具合が子猫特有のあどけなさを(かも)し出していて愛らしい。  だが――。 「ねっ? すっごく可愛いでしょ?」  俺の顔をじっと見上げてくる音芽(おとめ)の期待に満ちた大きな目が照明を映してキラキラと光って。  スマホの画面を俺に見せようと身体をこちらに乗り出してきているから、音芽が身にまとった甘やかな香りがふわりと漂ってきて、俺はその芳香にクラリとしてしまう。  夏で、薄着で、一緒に住み始めたばかりで、新婚で。  前かがみになった音芽の胸元、ちょっと開きすぎじゃねぇか? 下着見えてんぞ?とか、子猫とは関係ないことにばかり気がいってしまう。  スマホの下になって死角になっているけれど音芽の薬指には、俺とお揃いの結婚指輪がハマっているはずだ。
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