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心ここに在らずでぼんやりしているうちに、車は商店街の中にある、とあるコインパーキングに入った。
「着いたよ」
窓にずっと張り付いていた私に、背後から鶴見先生の声がかかる。私はその声にハッとして、彼を振り返った。
「――あ、はい」
着いたよ、の言葉に何と答えたらいいのか分からなくて、迷った挙げ句、出たのはそんな気のないセリフで。
「音芽ちゃん、さっきからずっとダンマリだけど……何か考えてる?」
心のうちを見透かすみたいにじっと目を見つめられて、私は思わず視線を逸らせるようにうつむいた。
そうしてそのまま、絞り出すように声を出す。
「つ、……大我さんの告白に……どうお答えすべきか……ずっと考えてて……」
言えば、「うん、さっきの感じからすると、期待してもいいのかなって思ってたりするんだけど……どうかな?」と先手を打たれてしまった。
「え……?」
覚悟を決めたつもりだったのに、そんな風に決めつけられてしまうと、逆に決意が鈍って……。そんな気持ちが思わず声に出てしまった。
途端、鶴見先生に目を眇められてしまう。
「あ、あの……と、とりあえず歩きながらお話しませんか?」
何となく密室でこのまま、というのは怖くなって……私は窺うように鶴見先生を見やる。
彼が何も言わないのが怖くて、私は鶴見先生を見つめたまま、すぐに降りられるようにそっとシートベルトを外した。そうして寸の間、視線をそらしてドアの方を向いたら……。
背後からギュッと抱きしめられて、私は身体がすくんで動けなくなってしまう。
何でなの?
別に暴力を振るわれたわけではないし、言葉で威嚇されたわけでもない。なのに……何故だか物凄く……怖い。
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