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「あ、あの……大我、さん?」
まだイエスともノーとも告げていないうちからこういうのは困ります……。
そう言いたいのに声にならなくて――それでも必死に震える手で何とかドアロックだけは外した。
身体がすくんでしまって動けないけれど……私、ドアを開けて外に飛び出したり、できる、かな……。
でも――。その前に、しっかりと首筋に回された鶴見先生の腕を振り解くことができるだろうか。
以前、家の前で抱きしめられた時にも、温和が助けてくれなければ逃げることが出来なかったのを思い出す。
華奢に見えても、こうして腕を絡められると分かる。
鶴見先生、結構筋肉ついてる……。
そう思ったら、逃げられる気がしなくて……どんどん恐怖心が優ってきた。
「あ、あの……」
鶴見先生の手にそっと触れて離して欲しいと意思表示をしてみるのだけど、指先も声も小さく震えてしまって……情けないくらい自分は非力なのだと痛感させられただけだった。
温和、助けてっ。
ギュッと目をつぶって大好きな人の顔を思い浮かべる。
温和には、不意に抱きしめられてもこんな風に怖く感じたりはしなかった。
多分それは、私が温和のことを大好きだから。
私……やっぱり自分の気持ちに嘘、つけない――。
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