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考えてみたら、迎えに来てくれてから今まで、温和は私を抱きしめてくれなかった。
いつもならすぐにそういうことをしようとする彼なのに、温和は温和なりに思い悩んでいたのかもしれない。
グッと抱き寄せられて、温和の体温がじんわりと私に移ってくるようで、それが物凄く心地よくて。
それと同時に耳元で温和の心臓がせわしなくドクドクいっているのが分かって、これって私に反応してくれてるんだよね?って思ったらちょっぴり照れくさくなる。
彼の胸元に顔を埋めるようにして思い切り息を吸い込んだ私は、そこでふと違和感にとらわれた。
(あれ……?)
不意にふわりと漂ってきたフローラル系の香り。私、このにおい、知ってる。
その香りの主に思い至った途端、ゾクリと全身が粟立って、私は思わず温和を押しのけたい衝動に駆られた。
このにおいは……なんだか怖い。
すごくすごく……怖い。
嫌、じゃなくて怖いって感じたことに疑問を感じて……きっとそれはそのにおいの主に“温和を奪られてしまいそうで怖いからだ”と思い至った。
そうに違いない。
でも――。
何で温和の胸元からこの香りがしてくるの?
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