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音芽のやつ、仕事後に「ちょっと用事を済ませてきたいの」とか言っていそいそと出かけて行ったけれど……なに俺に断りなく髪の毛バッサリ切ってんだよ。
和音が、「たまにはママをひとりにしてあげないと嫌われるわよ?」とかいうからしぶしぶ許しただけなのに、和音も共犯だったか。――くそっ。
などなど言いたいことは山ほどあるのに、不満を口にする前に、興奮した様子の音芽にさえぎられてしまった。
「でね、お兄ちゃん、髪の毛短く切って黒く染めてたのよ!」
一瞬音芽の言っている言葉の意味が分からなくて、俺は自分でもわかるぐらい間抜けな声を出していた。
「は?」
「だから、お兄ちゃんよ! ものすごいイメチェンしてたのっ!」
――いや、それ、お前もだからな?
喉元まで出かけた言葉を、俺は寸前で一旦飲み込んだ。
奏芽がイメチェンしたと言うのも全く気にならないわけじゃない。
けどそれはまた後日、本人に直接会えば嫌でも分かることだ。
それより何より、俺にとって重要なのは音芽の変化のほうだ。
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