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「歌も歌ってくれないのに。ギターなんかおしえませーん!  そして聴かせん!」  ふいって横を向いたまま言われる。  ひどい。  相変わらずひどい扱いだ。 「……チケット買ってあるもん。来週の!」  そう言ってみたら、  羽方さんは、一瞬だけぐっと息がつまったような顔をしたけど、  次の瞬間には、にゅっと目じりを下げる。  弓なりの目で、嘘くさい笑顔を作る。 「これはこれは、ようこそお客さま」  ぺこりと気取った一礼をして、私を置いてすたすた歩き出す。  いつものポジションは素通り。  気持ちを削いでしまったのか、今日はここでは弾かないらしい。  悲しい。    見捨てられた感半端ない。  この人といると、8割がたこういう気持ちでいる気がする。    でも、  傷つけられているようで、傷つけているような。  そんな気持ちにもなる。 「……好きなこと探せって言ったの、羽方さんですよぉ」 小さくつぶやいてみたけど、それもお前の責任だろって言うんだろうな。
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