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 羽方さんは、ストリートミュージシャンのギター弾きで……  なんだろう?   私のあこがれの人?  なんかちょっと違う。  腕前がすごすぎて、ともすれば甘酸っぱい方に取られかねない「あこがれ」なんていう言葉はそぐわない。    どっちかっていうと、神様とか。  モンスターとか。  魔王とか。  そんな感じだ。人知を超えている感じ。  とにかく、それはそれは素晴らしいギターを弾く。  引っ込み思案で新しいことが苦手な私が、ついうっかり自分で弾いてみたくなるほどには。  本当は教えてもらいたいんだけど、押しかけ弟子でさえこんなふうに門前払いだ。    性格は、冷酷無慈悲。  彼の言葉はいつも凶器みたいにあちらこちらにぐさぐさ刺さって、痛いばっかりの人だ。  言うことが全部的を射ているから、最終的には優しいと取れるかもしれないけど、  ……いや、やっぱり優しくはないか。  的を射すぎていて余計に傷つくから。    私はといえば真面目が取り柄の会社員で。  短所も真面目なことだと思う。  だから元々は羽方さんと私には何の共通点もない。こんなに真逆な人っているのかって思うほどだ。  それがなぜかこうやって時々言葉を交わしたり、連絡先を知っていたりするんだから不思議なものだ。  偶然の産物としか言えないその出会いには、私自身の様々な失態があり、思い出すたびに、変な汗が出てくる。
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