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 指が壊れそう。  だけど、思い切って小指を伸ばしていく。  いわゆる水かきをめいっぱい広げる。なぜか関係ない手の甲のあたりがつりそうになった。 「よっし、とどい、たぁ!?」 とどいているうちに! と焦って弦を鳴らしてみる。 ぺ、きぺき、ぴーん なんとも無様な音が出て、その落胆で思わず指を放してしまった。 「……」 我ながら、情けなさすぎる。 あーあとため息をついて、手元の教則本を見つめる。 ひりひりと痛む左手の指先にはくっきりと弦の形に跡がついていた。 「そう簡単に、うまくいかない、かー」 もともと器用とは程遠いから、初めてのことがすんなりうまくいったためしはない。 「こういうのは慣れてる」 学生時代にずっと合唱をやってきたからわかる。 こういうのはずっと繰り返し練習するしかない。 歌も、楽器も同じ。最初は全くできないものなのだ。 それを知っているから、絶対無理だとは思わない。それに……コツコツ地道に。これは苦手ではない。 部屋に置いてある姿見に真新しいギターを抱えた自分の姿がうつっている。 「似合わない……」 自分でそう言いたくなるくらいそぐわない。 床にぺたりと座り込んで、ギターを抱えているアラサー女子。 痛いなあ、と思わないでもない。しかも初心者。 勢いだけで購入したアコースティックギターをそっとなでる。 少し前の自分なら、やってみたいという気持ちすら無視していただろう。 その方が賢いのかもしれないと今でも少し思うけれど。 多少、痛いヒトになったとしても、私は今の私の方が好きだと思う……いや、思いたいという方が正確かもしれない。 私がこんなふうに思うようになったのも、全部あの人と出会ったおかげなのだ。
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