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私が廊下を歩いている頃、空の様子が変な事は分かっていた。もうすぐ夕暮れ近くなのに、真っ赤な夕焼けの色が、空の何処にも見当たらない。
それどころか、空は真っ黒な雲に覆われて、まるで隕石でも降ってくるんじゃないかと思えるくらいだった。
私は慌てて靴を履き替え、駅までダッシュで向かおうとした。しかし、校舎から出ようとすると、待ち構えていた様に、大粒の雨が降りだす。
茶色い地面は、まるでコンクリートの様に真っ黒になり、後門が見えないほどの土砂降りになっていた。
私は大きくため息をついて、鞄の中を漁る。しかし、いつも入れてあるはずの折り畳み傘は、この前壊れて捨ててしまった事を思い出す。
私は自分の馬鹿さに、つい柱に全身をぶつけて、再びため息をつく。
私の両親は共働きだし、兄弟や姉妹はいない、つまり私を助けてくれる人は、ほぼ0に近い。
私は、とりあえず沈んだ心を元に戻そうと、SNSなどで天気情報を確認する。
SNS内でも、この土砂降りは取り上げられていて、友人の何人かも、私と同じ様に立ち往生しているらしい。
私は、そんな友人達の仲間入りをしようと、SNSにメッセージを打ち始める。
「ねぇ」
突然後ろから声が聞こえて、振り向くとそこには、シズカさんが立っていた。
彼に話しかけられたのも初めてだけど、彼の声を聞くのも初めてな気がして、私の鼓動は一気に高まる。
体を突き抜ける様な鼓動に、私は無意識に飛び上がってしまい、そのまま校舎の階段を滑り落ちた。
雨で地面が濡れているから、私の体は豪快に滑り落ちてしまう。私は倒れながらも、必死でスカートを抱えて、できる限り醜態を晒さない様にした。
私の異様な慌てぶりを見たシズカさんは、戸惑いながらも、屋根の外側に来て、私に手を差し伸べる。
私はもう、頭の中が真っ白になり、泥だらけになってしまった手で、差し伸べてくれた彼の手を掴んでしまう。
彼の手は思った以上に硬いけど、とても暖かい。きっと、毎日のギター練習で手が硬くなっているんだ。
そして私は彼に支えてもらいながら、ゆっくりと腰を上げる。
そしてその拍子に、私の胸ポケットに入っていた物が、水溜りへと落下していく。
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