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私はいつも彼のギター演奏を聴いている時、必ず『写真入りのお守り』を握りしめてる。
そして、彼の演奏が終わると、私は決まってそのお守りを胸ポケットに入れていた。
でも今日は、運が良いのか悪いのか分からないけど、彼に話しかけてもらった代償として、お守袋は茶色い水たまりに落ちる。
ピンクだった生地がどんどん濁って、私も彼も、一瞬そのお守りを掴もうをしたけど、どちらも間に合わない。
そして、濡れてしまったお守袋の生地はどんどん薄くなる。
どこまで運が悪いのか、絶対に見られたくない中身が、絶対に見せたくない人の眼中に入ってしまう。
彼は一言、「これは・・・?」と呟いていたが、私は彼の言葉なんて耳に入らず、恥ずかしさと悔しさから、彼を背にして走り出した。
もう自分や制服がびしょびしょになろうが、そんな事考えてもいられない。
私はもう、彼を目で追いかける事はできないし、彼の演奏を聞く事も叶わない。
こんな気持ち悪い事する女、遠ざけられて当然だ。彼だけではなく、クラス中の皆から変な目で見られてもおかしくない。
私は、自分の意気地の無さから、これからの高校生活を自らの手で壊してしまった。
言い逃れなんてできない、私があのお守り袋に縋っていた事も事実だし、あんな写真を作ってしまった事も事実だ。
明日が怖い事もあるけど、それよりも、これからの高校生活自体が怖い。もう学校に出す顔がない。
私は気づくと大粒の涙を流しながら、その場に蹲み込んでいた。
大雨の道を歩く人は誰もいないから、私に手を差し伸べてくれる人なんていない。
目頭は熱いのに、体全体は凍える様に冷たい。びしょびしょになった全身に、思わず吐き気を感じてしまう。
もうこの場で全てを吐き出し、全てを捨ててしまった方が楽なんじゃないのか、そう思えた私は、冷たい地面に自分を投げ出そうとした。
「レイさん!!!」
私の背中が急に暖かくなり、振り向くとそこには、私と同じくずぶ濡れになってしまったシズカさんが、私に抱きついていた。
枯れていた私の脳が一気に潤い、顔を真っ赤にしながら、私は口をパクパクと動かすしかできない。
シズカさんは私の体を強く握り締めているが、怒っているわけではなく、むしろ喜んでいる様な表情をしている。
ますます状況が理解できなかった私は、とりあえず、「どうして?」と聞いた、色々な意味で。
するとシズカさんは、ズボンのポケットの中から、『一枚の紙』を取り出した。
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