写真に込めた淡い思いは 現実に姿を現す

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濡れてはいたけど、それは確かに、『私のみが写っている写真』だった。 でもその写真に写る私は、カメラの方向を向いていない。私も、こんな写真を撮ってもらった記憶なんてない。 つまりこの写真は、『彼自身』が撮ったという事。悪く言えば、『盗撮』だった。 そしてシズカさんは、手に持っている写真を、突然ビリビリを破く。全てが紙切れになった途端、私の両肩をがっしりと掴んで、大声でこう言い放った。 「自分・・・  自分『も』・・・実は・・・  入学式の時から、貴女の事が好きだったんです!!!  でも自分は、告白する勇気なんて持てず、苦悩の果てに、こんな写真を撮っ  てしまって・・・  ・・・でも  もういいんです、『写真の中にいるレイさん』を、ただ見つめるだけの毎日  は、もう今日でやめます!!!  これからは、『自分の瞳に写っているレイさん』、『明るい笑顔を見せてく  れるレイさん』、貴女自身を見つめ、愛します!!!」 そう言い終えると、シズカさんは冷たくなった私の体を、強く抱きしめる。 私よりも10センチほど高い彼の全力で、私は無意識に爪先立ちになっていた。 そして、先ほどまで曇天だった空を見つめると、真っ黒な雲の割れ目から太陽の光が差し込む。 その光は、冷えた私や彼の体を温めてくれる。でも相変わらず、私の目頭からは、暖かい大粒の涙が流れたまま。 彼の大切なギターが入っている筈のギターカバーも、かなり濡れてしまっている。 きっと中にしまってあるギターも、無事では済まないだろう。でも彼は、大雨の中走って逃げた私を追いかけて来てくれた。 彼は胸ポケットから私のお守り袋を取り出し、私に返してくれる。でも私も彼と同様、中に入っていた写真を破こうとした。 でも彼は、そんな私の手を慌てて止めてくれる。私が「どうして?」と聞く前に、彼が理由を述べてる。 「きっとその写真が、自分とレイさんを引き寄せてくれたんだよ」 その言葉に、妙に納得してしまった私は、その場で大笑いをしてしまう。それにつられて、彼も笑っていた。 今まで無表情な顔しか見た事がなかったけど、笑っている彼の笑顔は、とてもかっこいい。 彼は濡れた眼鏡を取り、濡れた髪をわしゃわしゃと掻く。完全に写真に写っている彼とは別人に思えた。 雨が止んで、人がポツポツと道を歩いている。私達二人を見た人達は、だいぶ不思議そうな目をしていた。 それもそうだ。ずぶ濡れの女子高校生と男子高校生が、笑いながら顔を真っ赤にしているんだから。
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