彼が来るまでは普通の手芸部でした

勧誘

「手芸部　新入部員募集中」

　という文字が書かれたプレートを、教室の入口に立てかけた。プレートは、粘土でできたマカロンで縁取られている。卒業していった先輩が寄贈してくれたものだ。

　新入生の入学式から一週間経った。今はどの部活も新入部員を確保するため、体験入部を行っている時期だ。

　かくゆう私も、手芸部の部長として、新入生を迎え入れるべく準備をしていた。手芸部の部室は、空き教室の前半分だ。もう半分は、他の部が使っている。

　今まで部員が作った作品を、机に並べながら、勧誘活動について考えた。今、活動している手芸部員は私一人だ。在籍している生徒は他にもいるが、皆幽霊部員である。この高校は、どこかしらの部活に入らなければいけないので、とりあえず手芸部に籍を置いておき、事実上の帰宅部という人が多い。手芸部は、顧問の先生も滅多に顔を見せないし、部活をサボっていてもお咎めなしだから、部活をやりたくない人の受け皿となっていた。
　部員の頭数はあるので活動は出来るが、やはり少し寂しい。ここは頑張って手芸に興味のある一年生を引き入れたいところだ。

　とりあえず、体験入部の人が来たら、一緒に何か作ろう。一、二時間以内で完成できるものがいいな。編み物でコースター作るとかにしよう。私は編み物得意だし。

　見本の作品と、編み物に使う道具を机に並べた時、教室の扉が開いた。