完成

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完成

 火野くんは、のみこみがよく、私がやって見せた通りに手を動かした。入部二日目にして、あっさりクマの編みぐるみを完成させた。 「すごーい! 初めて作ったとは思えないよ!」 「部長のおかげっす」 「いやいや、火野くんすごく器用だよ」 「ありがとうございます」  私は火野くんが作ったクマさんを眺めた。編み方もムラがなく、頭と体のバランスもいい。とてもかわいいクマさんだ。初めて作った作品がこれなら、この先いろいろなものが作れるだろう。私は火野くんと活動するのがとても楽しみになった。私が見本に作ったクマも一緒に並べてみる。 「これは、キーホルダーにしようっと」  私は自分が作ったクマさんをキーホルダーにしようと、キーホルダー用の金具をクマさんにつけた。 「なるほど、それをつけるとキーホルダーになるんすね」 「そうだよ。火野くんもキーホルダーにする?」 「それよりも目を増やしたいすね」 「へ?」 「目のパーツもう一個使ってもいいすか」  私は返事をするのも忘れ、ぽかんとしていた。火野くんは、クマさんのおでこのところにもう一個目のパーツをつけた。クマさんは三つ目になってしまった。 「第三の目です」 「だ、第三の目……!」  なぜか復唱してしまった。火野くん一体なにをしているんだろう。 「目が三つあるのに手が二つは不便そうだな。よし、手ももう一個足そう」 「ええー!」  驚く私を置いて、火野くんは第三の腕をさらりと作り上げ、クマさんの胸元に付けた。 「よし、完成」  第三の目と三本の腕を携えたクマさんができた。火野くんはものすごく満足気にクマさんを眺めている。  さっきまであんなに可愛かったクマさんが、とんだバケモノに……  私はちょっと悲しくなった。 「火野くん、本当にこれでいいの……?」 「いいっす」  ま、まあ火野くんがそれでいいなら……と私は口出ししないことにした。だけど、普通のクマさんの方がかわいいと思う……  次の日、火野くんは編みぐるみでワニを作った。使う毛糸を紫色にした時点でなんだか嫌な予感がしたが、案の定、足を従来より多めに作った。十二本足のワニさんが誕生した。  どうも、火野くんは造形センスが変わっているようだ。従来の編みぐるみの姿は気に入らず、体のパーツを足しまくる。部室にはどんどんバケモノが増えていった。  最初は「やだーこんなのかわいくなーい」と思っていたのに、慣れって怖い。毎日見ていると、なんだかどれもかわいく思えてきた。  なにより、火野くんは毎日熱心に手芸部で活動している。一緒に活動してくれる人がいるのは、やはり嬉しい。  結局、今年の新入部員も火野くん以外は皆幽霊部員で、まともに活動しているのは私と火野くんだけだった。
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