幸せな写真

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俺のデジタルカメラには、不思議な機能が付いている。 撮った覚えのない、未来の日付の写真が保存されているのだ。 気付くと保存されているものと同じ写真をその通りの時刻に撮る事になる。 初めは分からなかったが、 どうやらそれは実際に起こる未来の写真なのだと理解した。 その未来の写真通りであれば、 俺は5年後、長髪で色白の美しい女性と結婚し、子供にも恵まれ、 裕福な家庭で幸せそうに暮らしているらしい。 まさに誰もが夢見る理想的な未来と言えるだろう。 俺はこの未来を目指しながら、就職活動に励んでいた。 数ヶ月後、俺の就職先が決まると、 父は就職祝いにスーツを買ってくれた。 それは未来の写真に写る俺が着ているものだった。 未来の写真の事を家族に話した事はなく、 当然父がそのスーツの事を知っている筈はなかったが、 順調に目指すべき未来に向かって歩んでいるようだった。 写真と違う事といえば、今付き合っている彼女は、 明らかに写真の人とは別人だった。 俺はいずれ彼女と別れる運命なのかもしれない。しかしそれまでは一緒にいたい。 そう思っていた。 ある日、俺の彼女の存在を知らない母が、 突然お見合いの話を持って来た。 知人の娘だと言って見せられたお見合い写真には、例の写真の女性が写っていた。 今の彼女を裏切るようで正直気乗りはしなかったが、 これは避けられない事なのだろう。 ついに彼女と別れなければいけない時が来たのだと思った。 俺はお見合いを受ける代わりに、お見合いをする前に少し時間が欲しいと母を説得した。 せめてお見合いを受ける前に今の彼女と別れるのが筋だと思ったからだ。 覚悟していたつもりだったが、 いざ別れ話を切り出そうとすると、どうにも言い出せずにいた。 「彼女と別れれば、誰から見ても理想的な素晴らしい未来が待っているのだ」と 何度も自身に言い聞かせたが、 なかなか決心出来ない。 そんなある日、俺の家に彼女を招いた際に 隠していた筈のお見合い写真を彼女に見られてしまった。 別れ話を切り出すなら今しかないだろう。 しかし、気づけば彼女に言い訳をしようとしている自分がいた。 結局上手く説明する事も自分から別れ話を切り出す事もできず、 彼女とケンカになった末に彼女から別れを告げられてしまった。 これでよかったのだ。 そう自身に言い聞かせようとしても、どうしても納得出来ない自分がいた。 そして葛藤の末、俺は彼女にきちんと謝り、プロポーズをする事に決めた。 彼女といられるなら、「理想の未来」なんていらないと思えたからだ。 彼女はプロポーズを受けてくれた。 そして俺たちは、結婚した。 その後、例の写真の事をふと思い出し確認してみると、 未来の写真は全て消えていた。 しかし俺は、後悔はしていない。 写真の示す「理想の未来」は消えてしまったが、 俺にとって彼女こそが理想の女性で、 彼女との未来こそが理想の未来なのだから。
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