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ポタリ、と水滴が蛇口からシンクにこぼれ落ちる音が、私の耳に聞こえてきた。 お互い仕事で疲れた状態なら、全く気がつかない可能性のある音だ。 しかし、私達二人が沈黙する事によって起こった静寂は、その音をまるでアンプのように増幅させ、部屋内に大きく響かせていた ポタリ、ポタリと、一定のリズムを刻みながら、シンクに落ちていく水滴。 ギシリ、と、身体を動かすごとに、間伐材がこすれ合う音を鳴らすフローリング。 ブン、という吐息を洩らしながら、自らの臓腑に抱え込んだ食品を冷やしていく冷蔵庫。 ──そういえば、今日は特番でお笑い芸人を取り上げた番組があったんだ。 ふと、現実逃避めいた事が私の頭の中をよぎっていったが、今の私の心境は、とてもじゃないけどその番組を見れるような心境じゃなかった。 「あのさ、黙ってないで何か言ってよ」 焦れた私は、冷ややかに切り出す。 この重苦しい沈黙は、常に会話を必要とするタイプの私にとって、とてもじゃないけど耐え切れるシロモノではなかったからだ。 「……悪いけど、俺。 今、冷静に言葉を返せる状態じゃないよ」 返ってきた、直人の声はこの上なく低い声だった。
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