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「指輪はしてました。はい」 黒目を左上にやり、当時の光景を思い浮かべながら井上サンは返答した。 「だからアタシ、思ったんですよね。 『女子だけじゃなく、ウチらのクラスメイトの男子も遂に結婚し始めたんだな』って。 でも……」 井上サンは黙り込むと、そのまま沈思に入った。 「でも?」 焦れた私は、沈思を続けている井上サンをコチラに引き戻すかのように促す。 「……でも、佳奈には指輪がどうとか柴田クンが結婚していたかどうかは、全く関係がなかったみたいですね。 だって、一軒目の居酒屋で佳奈、ずっと柴田クンの横にいましたから。 呆れた男子の一人が 『おい、いい加減、柴田を解放してやれよ』 って注意したんですけど、佳奈には『馬の耳に念仏』だったみたいで、ずっと柴田クンの横から離れませんでしたから」 「その時の直人の様子は?」 極力、平静な声を装って私は尋ねる。 「……柴田クンは普通でした」 井上サンは返すと、続けて述べた。 「もう、年相応のはしゃぎ方っていうか……。 でも、佳奈の入れ込みようが、それ以上にハンパなかったですね 『直人クン、凄くカッコよくなってる!』って言って、終始キャッキャッしてましたし」 「……その感じじゃ、あまりドロドロした別れ方をしてなさそうだね」 福ちゃんが、苦笑いをしながら呟く。
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