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「……西原っち、西原っち」
「えっ?」
福ちゃんからの呼び掛けに、私は即座に我に返った。
そうだ、今の私は残業中だったのだ。
そして、その事をしめすかのように目の前には山積みとまではいかないものの、やり残した仕事の書類の束が置かれていた。
「えっ……、何?」
「やっぱ、井上サンから佳奈って子に、何があったかを訊いてもらった方がいいんじゃないの?
下手に、旦那に訊くよりかはさぁ」
「いや、いいよ」
私は小さく首を振ると、目の前の仕事に意識を集中させる。
というか、正直言うとこの話題についてあまり考えたくなかったのだ。
「西原っち」
「んっ」
素っ気なく生返事を返してしまう、私。
「……コレ、コピーとってきてあげるね」
言葉をかけても無駄だと感じたらしく、福ちゃんは立ち上がると、私の机にあった書類を手に取り、それをコピー機の前へと持っていった。
「ほらよ」
書類の原本とコピーを、私の机の上に置いてくれる福ちゃん。
「ありがと」
その福ちゃんに対し、再び素っ気ない口調で礼を言ってしまう私。
その私の様に福ちゃんは呆れたのか、ため息をつくと、おもむろに自らの席に座った。
「じゃ帰るわ、セコム悪いけど頼むな」
責任者として私と福ちゃんの二人を待っていたが、さすがに待ちきれなくなったのか課長は申し訳なさそうな顔つきで帰っていった。
経理も今日は珍しく全員帰っており、部屋はもう私と福ちゃんの二人だけとなった。
「……あのさ、福ちゃん」
FAX用紙に見積りを書き込む手を止めると、私はゆっくりと隣の福ちゃんに視線を向け、問い掛けた。
「何?」
「福ちゃんなら、どうする? こういう場合」
「こういう場合、って?」
「いや……」
間を取る為に私は背筋を伸ばすと、改めて福ちゃんに対して切り出す。
「福ちゃんが結婚してたなら、こんな状況に直面した場合どうするのかな、って思って……」
「うーん」
さすがに即答出来ないのか、福ちゃんは腕組みをすると、天を見上げる。
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