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8時に仕事を終え、疲れた身体で帰宅してみると、直人はまだ家に帰ってきてはいなかった。
バッグをリビングソファーに置き、買い込んだ食材を冷蔵庫に入れ終わると、私はテレビをつける。
適当にチャンネルを変えていき、お笑い芸人がVTRを見てバカ騒ぎしている番組でチャンネルを止めると、私は直人にLINEを送った。
『家、帰った。
とりあえずパスタか何か作るけど、晩御飯どうするのか連絡ちょうだい』
10分程待ったが、私が直人に送ったLINEは既読にならなかった。
先日の井上サンの疑惑に満ちた話もあり、苛立ちが高まってきた私はソファーを力いっぱい拳で殴ると、ぶつぶつと独り言を言いながらパスタを茹でていった。
直人が家に帰ってきたのは、11時前だった。
どうやら、昨日の私との口喧嘩をまだ引きずっているらしく、直人は「ただいま」と無愛想に言うと、ダイニングテーブルで一息ついている私に背を向けるように、リビングソファーに座った。
「遅かったね」
「んっ」
コチラに背を向けたまま、子供みたいにすねた様子で返す直人。
「晩ご飯、パスタくらいなら作れるけど、食べる?」
目の前に半分程残っている、梅じそドレッシングがかかったパスタを見ながら、私は直人に問い掛ける。
直人は「いらない」と、私に背を向けたまま手短に答えた。
「……あのさ」
ダイニングテーブルから立ち上がり、直人と少し距離を置く形でリビングソファーに座ると、私は極力穏当な口調を装いながら切り出す。
「こんな時間まで、ドコに行ってたの?」
「残業だよ」
「結婚してから今まで、こんな時間に帰ってきた事、一度も無かったじゃない」
直人は返答せず、視線も一切コチラに向けようとしない。
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