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「あのさ、何かアタシに隠し事してない?」
じわり、と私は核心に踏み込んだ質問をしてみた。
直人は私から露骨に視線をそらし、未だ返答しようとはしなかった。
「井上サン、って女の子覚えてる?
高校のクラスメイト」
私の言葉に、直人は目を大きく見開いた。
「その井上サンって女の子、こないだアンタが行った同窓会に来てたよね?
アンタの元カノの、佳奈って子も一緒に」
「いや、それは……」
「何が、それはなの?」
私の声は、すっかりと抑揚を欠いていた。
その事を客観的に知った私は、自分の今の心理状態も客観的に悟る。
今の自分は、キレる寸前なのだという事を。
「アンタ、その元カノの佳奈って子と同窓会の時、結構楽しげに喋ってたそうじゃない。
二次会のカラオケ行ってくる、ってアタシにLINE送っておきながら、二人でどっか行っちゃったりしてさ」
「いや、それは佳奈が……」
「バカにしないでよ!」
近所迷惑も考えず、私は声を張り上げた。
その私の怒声の後、返答に困っているのか直人は何一つ言葉を発そうとはせず、静寂が安物の芳香剤みたくしばらくリビング内に漂っていた。
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