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「さっきも訊いたけど、今日の残業っていうのも、実は嘘なんでしょ?」
私は徐々に直人を追い詰めていく。
「ホントは、佳奈って子に会ってたんでしょ?
今日、仕事が終わって、すぐに」
図星なのだろうか、直人はうつむいたまま言葉を返さない。
「っていうか、自分のやってる事、おかしいと思わないの?」
怒りから、私の口調は徐々に早口になっていく。
「アタシがこうして家で『晩御飯どうするんだろ』って、そっちの帰りを待ってる、っていうのにさ。
仮に残業だとしても、普通は連絡の一つくらいはしてくるモンでしょ?
アタシが送ったLINE、既読にすらならなかったし。
家庭を持ってるって自覚、アンタにはないの?」
「……連絡する気になれなかったんだよ」
「はぁ?」
「昨日もお前……。
機嫌悪いのか知らねえけど、必要以上に俺につっかかって来たから」
「それだけが理由とは、アタシ的にはとても思えないけどね」
言い終えた私は、鼻で笑う。
「じゃあ、どういう理由だっていうんだよ……?」
「自分の胸に、訊いてみたら?
なんでアタシが、全部ベラベラと喋らなきゃいけない訳?」
私はソファーから立ち上がると、寝室のドアを開けた。
直人はそんな私の行動を止めもせず、視線を落としたまま、じっとリビングテーブルを見つめていた。
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