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「……ところでさ」
回想にふけっていた私は、福ちゃんの呼び掛けで即座に現実に立ち返った。
「なんだったら、その佳奈って子に会う事も考えてみたら?
井上サンを間に挟んだ状態だと、いまいち話が見えにくいしさ」
福ちゃんはリビングテーブルに置いてあったタバコを手に取ると、深々とそれを一口吸う。
「けど、会ってくれるかな……?
アタシに会うって事は、自分が浮気相手です、って名乗り出るようなモンだし」
「どうやってでも、会うんだよ。
法的手段をちらつかせるとか、どんな手段を使ってもね」
語気を強めて福ちゃんは言うと、再びタバコを一口吸った。
「あっ、ゴメン。
西原っち、タバコやめてたんだっけ?
アタシ、考え無しに吸っちゃった」
「結婚してからやめたけど、いいよ別に。
泊めてもらってるのに、嫌煙権とか主張する気ないしさ」
「アレだったら、吸う? 久しぶりに一服」
私は「いらない」と福ちゃんに返すと、キッチンへと向かった。
シンクの脇には、昨日二人で飲みあかした缶ビールの空き缶が積まれてあった。
「旦那クンの朝ごはんって、何作ってたの?」
福ちゃんはソファーに座った状態で体をよじって、キッチンにいる私に尋ねてくる。
「適当だよ。
フレンチトーストとか、ハムエッグとかね。
まぁ、直人は何作っても『美味しい』って言って、食べてくれたけどね」
「アタシ、フレンチトーストが食べたいなぁ」
ガラにもなく、猫なで声で言う福ちゃん。
その福ちゃんの言葉に、私は「りょーかい」と軽快な口調で返すと、冷蔵庫から牛乳を取り出し、調理にとりかかった。
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