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……で、店を出て二次会に行く途中に、佳奈が柴田クンにこう言ってくれたんです。
『あのさー、直人。
アタシ、今日カラオケって気分じゃないから、ちょっと抜け出して飲み直さない?
ジュンちゃんも別にカラオケ行きたくない、って言ってるしさ、このまま三人でバーかどっかに行こうよ』
柴田クンは、少し迷ってたんですけど、佳奈に押し切られる形で渋々アタシ達についてきました。
でも、さすがに飲み直すのは嫌だったみたいで、行くのなら『スターバックス』って主張して、折れませんでしたけど」
私は頷き、カフェラテを一口飲む。
「そこで、アタシ。
自分を抑えようとしたんですけど、もうダメでした」
井上サンの顔に、ほのかな赤みが生じた。
「佳奈が気を利かせて、先に帰って私と柴田クンの二人きりになった時は、もう心臓が凄い事になってて……。
その時には、柴田クンが西原サンの旦那って事を、アタシすっかり忘れて喋ってましたから」
「で、そん時の直人の様子はどうだった訳?」
私は尋ねる。
今回の事の真相は、あらかた読めてきた。
しかし、ココで重要なのは直人がどういう風に思っていたか、なのだ。
「柴田クンは……」
ここで井上サンは、先程までのテンションが嘘であるかのように、急にトーンダウンした。
「少しもブレませんでした。
アタシが、『この後ドコに行く?』って訊いても、『悪い、嫁サン待たしているから帰るよ』の、一点張りでしたから。
アタシ、落ち込んだのをごまかすのに必死だったんですけど、考えてみればそういう頑固なトコロが柴田クンの魅力でもあるんですよね。
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