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「でも、アタシ。
柴田クンを諦める事が、どうしても出来なかったんです。
西原サンと柴田クン、結婚してるっていうのに」
ふぅ、と一息ついた後、井上サンは再び語り始めた。
「柴田クン、見違える程カッコよくなってたし、佳奈の言ってた『姉と弟みたいな夫婦生活』っていうのが頭をよぎって……。
悩んだ結果、アタシ。
思い余って、西原サンにあんな事を喋っちゃいました。
柴田クン、同窓会で佳奈に言い寄られて、その後二次会そっちのけで二人して抜け出した、って。
アリバイのLINEも、佳奈に頼んで送ってもらって」
「確かに、言ってたね」
私は、冷ややかな視線を井上サンに向ける。
井上サンは申し訳なさそうに「はい」と答えると、続けて言った。
「さすがに、柴田クンが佳奈に惚れ直した、とまでは言えなかったですけど。
でも、アタシ……」
ここで、井上サンは再び話すのをやめた。
「でも?」
「でも、アタシ……」
ふぅ、と井上サンは再び一息つく。
話しにくい内容なのか、井上サンは視線を一度落とし、気を落ち着かせた様子を見せた後、一気呵成に話し始めた。
「でも、アタシ。
西原サンを惑わせるような事を言うだけじゃなく、先週の金曜に会社が終わった後、すぐに柴田クンに会いに行ったんですよ。
佳奈にLINEを送って、柴田クンの会社がドコにあるのかを聞き出して。
ラッキーって言っていいのか分かりませんけど、ちょうど柴田クンの会社の前に着くと同時に、柴田クンは会社から出てきました。
で、アタシ。
iPodか何かで音楽を聴いて、帰ろうとしている柴田クンに、思わず声をかけてしまったんです。
『この間はどうも、柴田クン』って、あざとい感じで笑いながら」
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