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「……何か、一言くらい喋れよな」 私は独りごちると、取り敢えずテレビをつけ、先ほど頭の中をよぎった特番を見る事にした。 テレビの画面には、冷えきった状態の私とは対照的に、お笑い芸人の若々しく元気な掛け合いが映し出されていた。 「……相変わらずバカだな、この子」 とあるお笑い芸人の一人を見据えながら、私はポツリと呟く。 しかし、呟いたものの、テレビから映し出されるその内容は、殆ど私の頭の中に入ってはこなかった。 前述した「苛立ち」が、私の頭から冷静な判断力を奪っているからだ。 冷静にテレビを見る事の出来ない状態だというのを悟った私は、レコーダーにくだりの番組を録画してテレビを消すと、ソファーに仰向けになる事で、頭を冷やす事にした。 ──静寂。 耳に聞こえてくるのは、先程も言った通り、静寂により響きを増した生活雑音だけだった 「アタシ、なんであんな男と結婚したんだろ……」 直人の顔を思い浮かべながら、私は深いため息を一つ吐く。 同時に、下らない事を口にした自分の行為を激しく後悔した。 確かに、直人の事はそんなに好きだった訳じゃない。 燃えるような愛情を持って結婚した、という訳ではなく、私達二人は元々は単なる友達同士だったのだ。 しかし、(今となっては「黒歴史」でしかないのだが)とある男との失恋による傷心が、私の中に直人への恋心を芽生えさせたのか。 気が付けば、私は直人と付き合い始め、そして平凡な恋人生活を「アラサー」と呼ばれる年齢まで送った結果、いつの間にやら私の選択肢は直人しかいないという状況になっていた。
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