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「えっ! 俺、なんかマズい事言った?」
私の様子に直人は慌てふためくと、すぐさまティッシュを手に取り、それを私に手渡した。
「……ううん」
私はゆっくりと首を横に振る。
「何も悪くないの……、直人は」
人差し指で、こぼれ落ちそうになっている涙を、私は静かに拭う。
「じゃ、なんで……?」
「気にしないで」
ごまかすように私は返すと、直人に向き直り、その目をしっかりと見据えながら、こう続けた。
「そうだよね……。
アタシ、直人の事を愛しているんだもんね。
なんで、その事に今まで気付かなかったんだろ?」
予期せぬ言葉だったのか、直人の顔に戸惑いが浮かんだ。
けど、その戸惑いを覆い隠すかのように直人は私の身体を抱擁すると、ポツリと言った。
「……だよな」
直人の身体の温もりが、私に伝わってくる。
私も直人の胸に顔をうずめ、抱擁し返す事で応えた。
そうなのだ。
私は、直人の事を「愛している」のだ。
今回の井上サンの一件は、確かに腹立たしいモノだった。
けど、そのおかげで私は大切な事実を改めて知る事ができた。
──直人の事を、愛している。
今まで忘れていた、自分のこの気持ちを。
結婚して、まだ2年。
これから先も、こういった事は恐らくたくさん起こるだろう。
けど、私達はそれらの障害をきっと乗り越えていくに違いない。
私も直人も、お互いが「愛している」という事実を今日知る事が出来たのだから。
「ねぇ、しよ……?」
珍しく、私から求める。
いつもの私なら、こんな事は言わない。
けど、今日はどうしても直人としたい気分だったのだ。
直人は無言で頷き、私の唇にキスをすると、私を寝室へと導いていく。
愛しい、直人の背中
その背中を見ながら、私は心の中でポツリと独白した
『私達、LOVEはじめました』と。
──了──
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