恋の予感を感じた時

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恋の予感を感じた時

「フレンチカジュアル」の 新しいオフィスに最後に残った 営業事務の席に面接に来た 清香であったが、緊張のためか 面接を受けた英明が途中で 席を外すというアクシデントが あったのだ。 その光景に不思議に思った恭輔は、 雪恵に言った。 「課長が離婚したのは、 3年前だったよな?」 「そうでしたね。ちょうど、 私が入社した時だったと思います」 「だいたい、前の奥さんが キツイ性格だったから、 課長が家に帰りたがらなかったのを 覚えているよ。 まさかと思うけど、課長に 春が来たんじゃないかな?」 「まさか、課長は仕事人間ですよ。 ありえないですよ」 しかし、このことがきっかけとなり 英明が清香を意識するように なったのは、この時の恭輔と 雪絵には知る由もなかったことだった。 そして、最後に残った営業事務の席に 清香が採用に決まった。 それから、「フレンチカジュアル」の 新しいオフィスが、正式に スタートすることが決まった。 そのなかでも、清香の営業事務の 経験がモノを言ったのか、 新卒で入ってきた夏子に手順を 教えていったのだ。 そして、雪恵は総務事務を 兼任していたが、今まで自分が 営業事務の担当をしていた仕事を 清香に任させて、自分は総務事務を 専念するまでになった。 そんな清香だが、営業に回った 恭輔と孝之そして香菜が オフィスに戻った時に、 冷たいお茶もしくはジュースを 出してくれる優しい気遣いを 忘れていなかった。 「お疲れさまでした。 みなさん、暑かったでしょう? 冷たい飲み物を用意していますから 飲んでください」 「ありがとうございます」 恭輔と孝之そして香菜は、 清香の用意してくれた 飲み物を飲んで休憩をした。 そんな清香の心遣いに、 英明は清香と生涯をともに 生きていきたいと 願うようになっていた。 これが、やがて英明が 清香を部下としてではなく、 一人の女性として思いを 寄せることになろうとは、 この時の英明には知る由もなかった。 「課長、どうしたんですか?」 「課長、最近は上の空に なっていませんか?」 「あっ、いや。なんでもない、 孝之そして香菜。恭輔の指導された ことを、ノートにまとめておけ。 恭輔、孝之と香菜のこと頼んだぞ。 オレは、今から本社に行ってくる」 そう言って英明は、本社のオフィス にと出かけて行った。 「あれっ?課長の様子が おかしくないですか?」 「なんか、顔が真っ赤になって いませんでした?」 孝之と香菜が、それぞれ 口々に言っていた。 「まさか、それはないだろう。 そうですよね、雪恵さん」 そう言う恭輔に雪恵は、 「課長に、女っ気はないですよ。 離婚をしているけど、 今まで浮いた話はないのよ」 と言ったのだ。 「えっ?課長ってバツイチなんですか? あんなにカッコイイのに、 もったいないですよ」 「マジっすか?信じられないですね」 そんな話を聞いて、夏子が言った。 「清香さん、チャンスじゃないですか? 課長は、清香さんに ホの時じゃないですか?」 しかし、清香はこう言った。 「何言ってんのよ。 そんなことを言ったら課長に失礼よ。 それに公私混同して、趣旨業務を 怠ることはNGコードよ。 これは、社会人としての一般常識よ。 気をつけないとダメよ」 NGコード、それは清香が 前の職場を退職する時に 覚えたことだった。 それは、清香が結婚を考えていた 職場の男性がいた。 しかし、その男性が 自分の同じ部署の後輩に 手をつけていたのがわかったため、 清香から婚約を破棄したのだ。 そして、男性から決別を切り出された 後輩が、ある日男性にナイフで 切り付けて自分も自殺をはかった。 当然ながら、男性と自殺未遂をした 後輩は懲戒解雇となった。 そして、清香も同時期に退職届を出した。 それからの清香は、男性に 恋愛感情を持てなくなっていた。 そんな清香ではあったが、 英明のことで自分の気持ちが 揺れ動いていたのがわかった。
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