72人が本棚に入れています
本棚に追加
ストーカーの恐怖
ツツジの花が終わり、
紫陽花の似合う季節に変わっていた。
そんななかで、清香を脅かす電話が
固定の電話にかかっていた。
「もしもし?」
「清香、オレ史生」
「今さら、なんの用なの?
迷惑だから、電話をかけてこないで!」
「なんだよ、オレたちは結婚まで
考えていたのに冷たいじゃないか!」
「あんたのことは、
もう終わったことでしょう?
二度と電話をかけてこないで!」
そう言って清香は、電話を切った。
それからというもの、毎日のように
史生からの嫌がらせがあったのだ。
吉澤史生、かつて前職場で
清香と交際をしていた男。
そして、後輩の女性に手をつけて
清香から婚約破棄を告げた男。
そして、後輩の女性が史生に
捨てられたことで、ナイフで
自殺未遂という事件を起こした最悪な男。
その経緯から清香自身、
二度と会いたくない男であった。
史生からの嫌がらせが続くなか
清香は、疲れてしまっていた。
そのことを最初に気づいたのは、
英明であった。
「広瀬くん、この原稿を
ワードでつくって出してくれ」
そう言って英明は、
清香に原稿を手渡した。
英明は、清香に何か頼む時は
メモ書きを添えていた。
そして、メモ書きにはこう書いてあった。
「何か、悩んでいることがあるのか?」
清香は、英明にS.O.Sを発信する
メモ書きを書いていた。
「ごめんなさい。
ここでは、話せないことなの」
清香は、そのメモ書きを添えて
英明から依頼された原稿と
一緒に英明に渡した。
「課長、先ほど依頼をされた
原稿ができました。
原稿のレイアウトは、
これでよろしいでしょうか?」
清香は、そう言って英明に
できあがった原稿と一緒に
メモ書きの返事を添えた。
英明は、清香のS.O.Sの
メモ書きを見ていた。
そして、清香に言った。
「このレイアウトで、大丈夫だ。
ありがとう、助かったよ」
そして、英明は清香の
S.O.Sのメモ書きに返事を書いた。
「今日は、定時で帰っていい。
いつもの場所で会おう」
これは、英明からのサインだった。
英明が、支店長兼課長を務めている
オフィスは、大阪梅田の茶屋町にある。
そこは、オフィスビルが多く並んでいる。
そのなかで、オフィスが入っている
ビルの地下に、喫茶店や飲食店の
お店などがある。
英明が、清香とプライベートで会う時は、
必ず地下街の喫茶店を指定していた。
「雪恵さん、すみません。
今日は、先に上がらせていただきます」
「いいわよ、清香ちゃん。
無理しないで、ゆっくり休んでね」
「ありがとうございます」
清香は、そう言ってオフィスを出た。
そして、英明が指定をした
喫茶店に先に入った。
これから、英明に自分のことを
話さなければいけない。
史生の浮気が原因で、
結婚が破談になったこと。
最近になって、史生から
ストーカーとも思われる
嫌がらせを受けていること。
これを、勇気を出して英明に話そう。
今の清香には、そうするしか
考えられなかった。
最初のコメントを投稿しよう!