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「ところでジュリアス、叔父様は元気かい?」
「アンドリューはスティーブを知ってるの? 会ったことがある?」
「ああ、ロンドンのクラブで何回か。彼もここに来る予定?」
アンドリューは、この夏ロバートに急接近してきたスティーブのことを不審に思っている様子だった。
そもそもアメリカ人のビジネスマンと、深窓育ちのロバートに接点はない。
「さあ。今ごろは休暇明けで忙しいんじゃないかな。スティーブに何か用?」
「いや別に。来ないならいいんだ」
ジュリアスが笑顔で質問をかわしたので、アンドリューもそれ以上は追及しなかった。さりげなくロバートがその先を補足する。
「彼には随分と親切に、ニューヨーク観光に連れて行ってもらった。しばらく休暇は取れないそうだから、ここには来ないと思う」
「そうか。会えなくて残念だよ」
彼との間にある見えない壁は、何も打ち明けられないロバートが、いつの間にか心の中に築いたものだ。とても近い距離にいる大事な人だからこそ、言えないことは山ほどある。
アンドリューの反応が怖かった。
同性が好きだなどと知られたら、拒絶されるか軽蔑されるか分からない。
あるいは逆に、優しい彼のことだから、可哀想な奴だと憐れんでくれるかもしれない。
もしも打ち明けてしまったら、もう元の関係には戻れない。非難であれ憐憫であれ、二人の間に新たな波風が立つことは避けたかった。
「ねえねえ、ロバート。僕、一度フェラーリに乗ってみたかったんだ。今日は天気もいいし、ドライブに行こうよ」
「ああ、いいよ」
アンドリューが話を聞きつけて、即座に却下した。
「ドライブ? それはやめた方がいい。こいつの運転じゃ、命がいくつあっても足りないぞ」
ジュリアスは振り返って首を傾げた。
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