63人が本棚に入れています
本棚に追加
「アンドリューも乗ったことがあるの?」
「免許取りたての時期に一度だけ。もう二度と御免だがね」
ため息をつくアンドリューに、ロバートはきっぱりと言った。
「あのときはまだ運転に慣れていなかっただけだよ」
「慣れる慣れないの問題じゃない。お前の運転は、飛ばしすぎだしクレイジーだ。家には運転手がいるんだから、お前がハンドルを握る必要はない」
大真面目な顔の従兄と、正面から睨みあった。
確かに車は買ったが、ロバートが自分で運転する機会は少なかった。
多少慣れたところで、性格に問題ありと言われたら、事実なので返す言葉もない。
「だからドライブはなしだ。ジュリアス、君からも止めてくれ」
「僕は乗ってみたい!」
「は? 今の話を…」
「聞いてたよ。でも乗ってみたい。もし危険なことがあれば、僕が隣から注意する」
普段は従順なジュリアスが、珍しくアンドリューに食い下がった。
「だって君は子供だし、免許も持っていないじゃないか」
「子供じゃないよ。それに人を乗せているときの方が、運転は慎重になると思う。僕が絶対に危ないことはさせないから。ね、ロバート?」
結局、人の多い市街地には行かないという約束で、しぶしぶアンドリューが折れた。ガレージまでついてきて、車のエンジンをかけ、異常がないか細部まで点検してから言った。
「街に出るなよ。行っていいのはゴルフ場周辺と公園の先までだ。預かった責任があるんだから、ジュリアスに怪我をさせるな。何か困ったことが起きたら、すぐに俺を呼んでくれ」
「分かったよ。ありがとう」
昔から面倒見のいい従兄ではあったが、過保護の親のようにこれほど心配されるのは初めてだ。やはりジュリアスという緩衝材が、二人の隙間にぴったりと入りこみ、衝撃をやわらげているような気がする。
赤いフェラーリが見えなくなるまで、アンドリューはガレージの前で心配そうに二人を見送っていた。
最初のコメントを投稿しよう!