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「うわあ、道がガタガタ!」
屋敷から続く道路は、市街地へ向かう一方向を除いて舗装されていない。
空港や公園へ向かうには、道とも呼べない未整備な荒れ地を走るしかなかった。
乗り心地が悪いのは、運転技術の問題ではない、とロバートは確信している。
「わっ、揺れる~! 舌かみそう!」
体は上下左右に揺さぶられた。さほどスピードは出ていないものの、大型のエンジンが大音量で唸り続ける。
人けのない田舎道を30分ほど走り回って、ロバートは見晴らしのいい丘の上で車を止めた。
ここからは大きく蛇行するテムズ川と、夏を満喫するかのように青々と茂る草木が果てしなく見渡せる。
「はあ~。そもそもこの車で山道を走ること自体に、無理があったね」
全身に力を入れていたらしいジュリアスが、脱力して言った。車のタイヤもボディの側面も、撥ね上げた泥だらけだ。
「そうだね。アンドリューがああやって見張っていなければ、街の方へ行ってもよかったんだけれど」
ロバートも苦笑しながら車から降りた。
後から考えてみれば、あの場でドライブの話は打ち切ってしまえばよかったのだ。日を改めて黙って出かけるという選択をしなかったのは、意外にもジュリアスが、車に乗りたいと言い張ったせいだ。
「君がわがままを言うなんて珍しいね。そんなに車好きだったの?」
「違うよ。彼があなたの車に乗ったって言ったから。あなたの運転が危ないって言ったから。だから僕も乗りたいって思ったんだ」
「なんだい、それ?」
初めは、また彼の言葉遣いがおかしいのかと思った。直截的な彼の物言いは、ときに飛躍して聞こえることがある。
「僕が知らないあなたを、彼はたくさん知っている。小さいときから一緒にいて、二人で危険なドライブにも行った。それは不公平だ。僕は彼よりももっと、あなたのことが知りたい」
思いがけない真剣な表情を見て、ロバートは返答に詰まった。
ジュリアスは幼いなりに嫉妬しているのだ。
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