63人が本棚に入れています
本棚に追加
確かにあのとき、ジュリアスははしゃいでいたし、ロバートも、初めてイギリスに来る彼が迷子にならないかと心配だった。加えて彼の質問攻めにあっていて、多少周囲への配慮は怠ったかもしれない。
普段なら抜群の記憶力と注意力で、知人に会っても気づかないということはないのだが、それが二人の世界に浸っている、恋人同士に見えたとは…。
「ごめんね、ロバート。僕のせいで変な噂がたって」
ジュリアスがしゅんとして言った。彼はすぐに自分から謝る、気弱な傾向がある。
「君はこの家の客だ。謝る必要はない」
「そうとも、君のせいじゃないよ。今までこいつには特定の恋人がいなくて、みんなでやきもきしていたんだ。育ちが良すぎてお堅いのは仕方がないとしても、家を行き来するような親しい友人もいない。だから俺としては、むしろ君が来てくれて安心したというか…」
「謝るのは君の方だろう、アンドリュー。ジュリアスのことを探りに来たり、女の子みたいに見えると言ったり。たいがい失礼じゃないか」
大人に対して口答えをしないジュリアスに代わって、ロバートが抗議した。
「ごめんよ、ジュリアス。みんな狭い社会で生きている人間ばかりだから、これはちょっとした事件だったんだ。君はこの辺りでは珍しいタイプだから」
「いいんだよ。気にしないで」
「俺は君のことを心から歓迎している。俺には可愛い後輩ができたし、ロバートには新しい友人ができた」
必死に弁明するアンドリューを見るのは、不思議な感じだった。人の心の機微を察し、常に先回りして気配りをするジュリアスと比べると、年上のアンドリューの方が、ずっと単純で未成熟に感じられる。
その取り込み中のところへ、困り顔の執事がやってきた。日ごろから冷静な彼の、顔色が変わるのは珍しい。
「ローラン様がお見えに…」
「いいよ、どいて。自分で行くから」
執事の背中を押しのけるように、一人の少年がずかずかとダイニングルームに入ってきた。
「マイケル! 会いたかったよ! いつアメリカから戻ってきたの?」
最初のコメントを投稿しよう!