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偽りの結婚写真
その日の夜、私はある写真をSNSにアップすることを決めた。
彼の結婚式に職場の同僚として参加した。ブスな花嫁が目一杯着飾った姿は滑稽だった。デブなのにプリンセスラインのドレスを着るから、余計に太って見える。
お色直しはベビーピンクのドレス。何かに似ていてる。ああ、あれだ。ババロア。フリルがふんだんに使われたドレスが似合わないから、ババロアの中に人が埋もれているよう。
結婚式から帰ると私は画像フォルダから一枚の写真を選び、SNSにアップした。
今日結婚したはずの彼と私の結婚写真。
自分の顔にはちゃっかりスタンプを貼り、彼の顔はスタンプを鼻から下にスタンプを貼り、目が丸わかりになるように。マーメイドラインの純白のウエディングドレス姿の私と、シレバーグレイのタキシードの彼。
スタイルが良くなければマーメイドラインは着こなせない。最高の一枚だと思う。
この写真を撮ったときに彼は私にこう告げた。
「子どものことさえなければ…ごめんね。愛してるのは君だけだよ」
つまり、彼は出来ちゃった責任を取って結婚しただけで、私は愛されている。
ただ、写真に付けたコメントは、
『花嫁コスプレしたよ』
コスプレだと言い張れば面倒事は最小限、でも新郎新婦へのダメージは最大限。
SNSの反応を楽しみに待っていると、予想外の事態が起きた。
私の他にも彼との結婚写真をアップする女性がいた。しかも、三人も!私のコスプレの言い訳が使えると思ったのか、三人が三人ともコスプレだと言い張っている。
ババロアのようなドレス姿だった新婦は、自分のSNSを更新した。
『ごきげんよう、負け犬の皆様。さようなら、永遠に。コスプレに騙された可哀想な野良犬さんたちも、次の飼い主が見つかるといいですね♥️』
勝ち誇ったように、ピンクのババロア…いや、ピンクのカラードレス姿で彼と腕を組んだ写真をアップした。
負けた…?向こうはデブでブスな癖に、なんで私は選ばれなかったの?
なんで?なんで?ねえ、どうして?
ババロアのSNSのプロフィール欄や過去の呟きを目を皿のようにしてチェックする。
すると意外な事実が浮かび上がってきた。結婚式の新婦友人卓は地味なネイビーのゲストドレスで統一されていた。しかし、誰一人としてドレスのデザインが被っていない。パンプス、クラッチバッグ、アクセサリーすら誰とも被らないデザイン。
新婦友人の呟きには、
『オートクチュールだと被らないから安心』
さらっと一点物のオーダーメイドであることが書かれていた。
ブランド物じゃないから油断していた。友人スピーチでも、ババロアがお金持ちだと思えるエピソードは無かったのに。
他の新婦友人の呟きには、
『あることが当たり前だからお金の話は人前ではね…』
思わせ振りな呟きが…。
ババロアは金持ちの娘ってこと?
金…。
結局、男も女も金なのか…。
彼は逆玉の輿に乗ったから、私は切り捨てられた?
ブスでデブの癖に!
自分の金じゃなくて、親の金でしょう!?
いくら恨み言を言っても、彼がババロアを選んだ事実は変えられない。
涙で滲んだスマホの画面を必死に操作して、私はSNSのアカウントを消した。コスプレだった結婚写真も一緒に消した。
しかし、ババロアのSNSの更新は止まらない。
『コスプレ花嫁さん一覧♥️』
私を含めた四人の女達のウェディングドレス姿を四枚セットにして晒し上げた。
一度アップした写真をスクリーンショットで保存したのだろう。
私は頭を必死に回転させて考えた。いくら事実であっても、負け犬、野良犬は誹謗中傷。名誉毀損で訴えてやる!怒りの感情を爆発させて、ババロアのSNSの写真をスクリーンショット仕返す。
ババロアは最後に、
『出るところに出たければご自由に~お金は腐るほどあるもん♪』
そう呟いて、夜景の見える高級ホテルの室内の写真をアップした。高級ワインで乾杯している二人の手元の写真。
乾杯に、『完敗』した。
「ババロアの癖に!」
一人泣き叫んでも、ただただ虚しいだけだった。
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