判明

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……早由利の通夜も葬式も終わり一週間。  俺は彼女が亡くなったあの木に来ていた。  なんてことのない、ただの木がこれほど特別に思えるなんて不思議だ。  俺は彼女を救うことが出来なかった。多分もっと前にどこかで選択肢を間違えていたんだと思う。  そしてそのことをずっと後悔して生きていかなくちゃいけない。  頬を伝う雫を拭って、その場を去ろうとした。  ふと目を落とすと足下に花が咲いていた。  アザミの花だった。本来なら夏頃に咲くはずの、季節外れの花。  ここで見つけたのは何かの縁に違いない。  俺は2輪咲いている内、大きな1輪を折り取った。    新居は俺1人にはずいぶん広く感じる。空間と心を少しでも埋めてくれるならと、持ってきたアザミの花を花瓶に生けた。  わずかな変化だがそれでも十分だった。  すぐに枯れてしまわないよう、毎日世話をした。  その甲斐あってか、花はいつまで経っても枯れることなく一週間が過ぎた。  きっとこの花は彼女、早由利の生まれ変わりなんだと信じた。それで心が救われた気がした。  ただ、ここ最近俺の体調が芳しくない。発熱に体の痛み、咳に頭痛に腹痛。インフルエンザかと思って病院にも行ったが結果は陰性。もらった薬も気休めにもならず1人で家にこもるようになった。  でも横になると枕元に誰かいるような気がして気が落ち着かない。眠ったら人に追いかけられて殺されかける夢を見る。  俺はなるべく起きて、気を紛らわせるために花瓶の花に話しかけていた。  花は、以前より大きくなっていた。  体調不良から2週間経っても変わらず、より悪化していた。  もはや食事は喉を通らず、歩くことも辛かった。体重は恐らく20kgくらい落ちていた。  脳裏によぎるのは衰弱していく早由利の姿。今の自分にピッタリ重なった。  彼女が体調を崩したのは親友が死んだからだとばかり思っていた。    でも、たぶん違う。  俺の朦朧とした意識と混濁する脳はそれでも確かな答えを出した。  俺は自殺した麻里の呪いだと確信していた。  麻里は死んだ後、早由利に取り憑いてじわじわとその肉体を侵食していって憑き殺した。  そして次の狙いは、もちろん俺だろう。  麻里の遺書には「呪いと共に来世へ」と書いてあったらしい。  そして最後に会った時言った“今の私は”の意味が、ようやくわかった。  麻里は強い怨念を持って自殺した。その来世が何になったのか。  ベッドで悶え苦しむ俺が体を横にすると、リビングの机に置いた花瓶が目に止まった。  根無しでも成長する季節外れのアザミの花。  あれは早由利の生まれ変わりじゃない。  そもそも早由利が何で通っていた大学を選んだのか。    そして麻里が自殺した場所はどこだったのか。    全てが脳内で結びついたとき、俺の目に写ったのは、成長して花瓶から抜けだした一人の全裸の女。  その女は明るい茶髪に光のない黒目でこちらまで歩み寄ってきた……。
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