悪化

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悪化

 数日後、麻里の葬式に早由利は参加した。俺は行かなかった。  早由利が聞いた話によると、どうやら麻里は首を吊って亡くなったという。足下に固定された遺書には「あなたへの怨みと呪いと共に来世へ」とだけ書いてあったとか。細かな事情はよく分らないみたいだが、俺は自分のせいなんじゃないかと不安が募った。  けどそれ以上に、知らせを聞いてから早由利の精神状態が不安定になって仕事も休んでいた。  俺は会社も休んで自分のことは二の次に、彼女のサポートに徹した。放っておいたら食事も睡眠も摂らないまま……になりそうで、同棲を始めて良かったと心から思った。  麻里が死んでから2週間経っても早由利は回復しなかった。それどころか日に日に体力も落ち、ご飯を口に持っていってもあまり食べなくなった。夜になると突然叫び出して暴れ回ったりした。俺は何度も病院に行こうと言い続けていたが聞く耳を持たず、頻繁にまるで誰かと会話しているような独り言を言うようになった。   このままでは本当に死んでしまうと思い、俺は救急車を呼んだ。  嫌だと駄々をこねて救急隊員にまで暴力を振るう姿はとても見ていられなかったが、半強制的に病院まで送られた。  医者からは各臓器の著しい機能低下と急速な栄養失調による幻覚幻聴や躁鬱など精神疾患をいくつか発症していると言われた。即刻入院レベルの重症だった。  ――月明かりだけの薄暗い病室。薬を打たれ安らかに眠る早由利。彼女の腕から細い管が伸びて点滴袋に繋がっている。俺はその手を握って無事を願った。   ……気付けば翌朝だった。俺は疲れと彼女の入院への安心感も相まってぐっすり眠っていたようだ。  白いシーツのベッドは空だった。  早由利の姿が部屋のどこにもなかった。    慌ててナースコールを連打した。  看護師や先生達も大慌てで監視カメラの確認や病院内にいないか探し回った。  出入り口の監視カメラを見たら、深夜3時頃に病院を抜け出す早由利が映っていた。  俺はそのまま病院を飛びだし、彼女が行きそうな場所を探し回った。  新居のマンション、俺や彼女の前の家、友人の自宅に実家へも連絡したが、見つからなかった。  他に可能性がありそうなのは、彼女が通っていた大学くらいだった。  休日だったが門は開いていた。  都内でも屈指の在学生を誇る大学なのでそこそこ学生がいる。  それっぽい姿の女子を見かける度に動きが止まる。でも見つからない。  校舎中を走り回って、体力の限界が来た。休憩しようとたまたま3階渡り廊下の手すりに前傾でもたれかかった。下は中庭で数本の木が芝生に囲まれ伸びていた。人は全くいなかった。 ――いや、一人いる。  息を簡単に整えて再び足を動かした。  階段を駆け下りて見下ろしていた中庭へ。  正面に佇む少し小柄な木を目の前に、俺は膝を落とした。  ジャンプしたら手が届きそうな低い枝にロープが掛かり、真っ白な顔の早由利が吊られていた。    
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