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また彼は照れていることに気づかずに無視されたと思い、頬を膨らませてすねる。照れてるだけ、そう言うには余りにも悔しすぎた。
だから、毎年の決まり文句を言ってやる。
『だって、健一が願うだろうなぁって思ってた願いと丸っきり一緒なんだもの。
聞かなくてもよかったんだ』の。
本当は聞けて良かった。彼の本音は、この時ぐらいしか聞けない。だけど、あたしは素直に喜べない。
素直に喜べばきっと健一は調子に乗る。そんなに俺が好きなのかって言いそうな人だから。
そうやって笑顔になって、あたしに引っ付きたがるような人だから。まるで犬みたいに、あたしにずっと寄り添う人だから。
『そんなに俺のことわかってくれてたんじゃん』
『まぁ、幼馴染ですから…』
当たり前のように隣にいるようになっていた健一。いつしか当たり前になってしまっていた。
けれど、いざ恋人になると、今まで一緒にいたのが信じられないくらいドキドキする。
『毎年同じ願いだしね。
健一、去年もあたしと一緒にいたいって願ってくれてたんだよ』
毎年、健一の願うことは一緒だった。
今年も七夕で掲げる短冊には、毎年と同じ言葉を書き綴る。
だけど、笹につけようと願いを書き綴った紙は一枚だけ寂しくあたしの机の上に置かれている。
「もう貴方は、いないのにね」
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