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体力勝負
初めてアラタに会ったのは、まだ正式採用になる前の3月下旬、校長に誘われて校長の家族と一緒に近くの温泉旅館に宿泊した時だった。校長の家族は、校長と奥さんとアラタと、校長の母親の4人だった。アラタの祖母である校長の母親は俺に会うなり
「アンタ、やめといた方がいい。どんなに体力あるったって、アレは野獣みたいなもんだ。」
とコソコソ話しかけてきた。
返事に迷っていると、いきなり後ろから走ってきたアラタは俺の背中に飛び乗ってきた。おんぶするように首に手を回し腰に脚を巻きつけて。俺はアラタをおんぶしたまま
「わああああああああああ!」
と大声で叫びながら古びた旅館の廊下をドドドドドドッと走り回った。
「ハハハハッ・・アーッハッハッハッ・・イエーーーイ!」
アラタは嬉しそうに笑った。
そのまま靴も履かずに玄関から外に飛び出した俺は、アラタを背中から一本背負いで地面にたたき落とした。もちろん下にクッションになるような背の高い草が生い茂っているところを選び、背中や腰を打たないように配慮してだ。
アラタは面白がって、また組み付いてきたので、俺は背負い投げや払い腰、すくい投げなど柔道の技を繰り出しアラタを適度にいたぶって遊んだ。アラタはなかなか根性があった。20回や30回投げられたくらいでは、へこたれなかった。
30分近く体力勝負をしてから、俺は裸足のまま走りだした。アラタも靴もはかずに走って着いて来た。どんどん走った。服を着たまま小さな川を横切って向こう岸まで渡り、石ころだらけの河原を駆け回った。アラタもハアハアいいながら俺を追いかけた。
「よーし!飯食いに戻ろう。腹減ったなあ・・・」
アラタは息を荒げながら俺を見て何度も笑った。
「わああああああああああ!」
と大声で叫びながら俺たちは走り、また小川を渡り旅館に戻った。
温泉旅館で夕食時に校長からビールを勧められたが、俺は飲まなかった。酒に酔った状態ではアラタの無謀な行動を制することが難しいと思ったからだ。
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