枯葉剤 2-4-5T剤

1/1
17人が本棚に入れています
本棚に追加
/9ページ

枯葉剤 2-4-5T剤

 F-90番まで進むと白い扉があった。指示された番号でロックを解除し中へ入る。中は4つの部屋に仕切られていた。各部屋に細かい指示が記されている。  room-№1で持ち物と着衣のすべてを脱ぎロッカーへ保管。  room-№2でシャワーを浴びる。  room-№3で全身に霧状の液体を噴霧された後、青白い光を照射される。  room-№4には施設内に入るための制服が準備されていた。下着を含め、すべてが俺の肌と同じ色の伸縮性に富んだ包帯のような素材でできていた。遠くからみると裸体のように見えるだろうと思う。  room-№4に備え付けられたインターホンの受話器を上げるとメッセージが流れた。 『K-75番の白い扉へお越しください。〇○○ー××〇○○でロック解除されます。』  その部屋に入ると120インチの大型スクリーンが設置されていて椅子が一脚あった。俺が入室すると同時に音楽が流れスクリーンに映像が映し出される。一見、普通のTVで放映されているドキュメンタリー番組のような雰囲気で動画は始まったが、明らかにTVと違うのは、今の俺を誰かがどこかで監視しながら、俺だけのために解説していることだった。 「ようこそ牧野慎吾さん。長時間の移動、お疲れさまでした。椅子におかけ下さい。これから、この研究施設について解説した動画をご覧いただきます。初めに、こちらの映像をご覧下さい。ベトナム戦争の映像です。南ベトナム軍を支援していたアメリカは、社会主義国が支援する北ベトナム軍との戦いが思いのほか長期戦になったことから、北ベトナム軍のゲリラが隠れる森林を枯らし、同時に食料となる農作物までも処分することを目的として低空飛行する航空機から大量の枯葉剤を散布しました。成分の中には少量でも有毒なダイオキシンが含まれていました。」    枯葉剤が原因の奇形児の映像が次々と映し出される。 「1970年以降、枯葉剤が原因とみられる流産、癌、先天性奇形が異常に高い頻度で発生するようになりました。」  次に日本各地に立てられた立ち入り禁止の立て看板が映し出される。 「ここからは機密情報です。ご理解の上、秘密厳守願います。当時、アメリカ軍が使用していた枯葉剤は、日本国内でも大量に製造されていました。ベトナム戦争が終わり、枯葉剤による癌や奇形児の問題が世界的大問題となったため、すでに国内で製造されていた枯葉剤の処分に困った国は、全国各地の国有林内等の46ヶ所に埋設しました。埋設した場所には『立入禁止区域 この区域に2-4-5T剤が埋めてありますので立入りを禁止します。○○森林管理署』という立て看板が設置されています。」  次に豪雨や地震の映像が流れる。 「近年、様々な自然災害が発生する中で、埋設されているダイオキシンは漏れ出していないのか、環境への影響はないのか、という心配の声が高まっています。そこで、この大量の枯葉剤を掘り起こし、有効活用する方法を研究しようという目的で、この研究施設は建設されました。研究に伴い大量の枯葉剤が持ち込まれることを想定し、また万が一、研究の過程でダイオキシン等が漏れ出た場合、その被害を最低限に抑えることを考慮し、施設はこのような人里離れた国立公園内の地下深くに建設されました。」
/9ページ

最初のコメントを投稿しよう!