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さらに剛志が何かしようとするなら、
それをなんとしてでも阻止してみせる。
そんな気配がちょっとでもあれば、
「節子が重体だ」とでもなんでも知らせて、
家から離れるよう仕向けると決めた。
もちろんそんなことにさえならなければ、
二人の剛志から見つからない場所で、ただ見届けようとしたのだが、
――まったく! あの人はどうして、こう事故にばっかり遭っちゃうのよ!
乗り慣れない自転車に乗って、今度は軽トラックとの接触事故だ。
この時もすぐ、監視役から連絡があり、
彼が何をしていたのかもすぐ知れる。
だから何よりもまず、農協で知り合った大地主の老婆、
藤間ももこに電話をかけた。
必死に自分は誰かを話して聞かせ、大慌てで事の次第を説明する。
「あれま、あの男があんたの亭主なのかい? それで、あの後事故に? あら、そりゃあ参ったね……」
それから老婆は剛志が望んだすべてを口にして、ちょっと間を空けた後、
まるで独り言のように呟いた。
「百万損したっていいというんだから、あと二十万くらい、損が増えたからっ
てどうってことないだろうさ」
「あの、二十万って……?」
「いや、なんでもないんだよ。まああれだ、おたくのご亭主が元気になった
ら、奥さんから伝えてもらおうかね……。二十万は、まあ手数料だったっ
て、伝えておくれよ」
そう言った後、「もういいかい?」とだけ言って、
老婆は返事も聞かずに電話を切ってしまうのだった。
五百万渡して、古い紙幣ばかりの四百万と交換する。
そうする理由は明らかで、
こうなってしまえばその意思を引き継ぐしかない。
半壊した自転車と紙幣の束が届けられると、
智子はすぐに入れる袋を探し始めた。
あの時代、どんな袋なら怪しまれないか?
それでいて、多少のことでは破れたりしないやつだ。
そう考えて思い浮かんだのは、
どこかのブランドショップで貰った革製の巾着袋。
――あれは、どこに置いたろう……?
真っ先に思い当たるのは、意味もなくだだっ広く作ったクローゼット。
当分使いそうもないものは、だいたいがここに放り込んである。
そうして思った通りにそれはあって、智子は金を押し込んだ袋を手にして、
ドキドキしながらマシンの階段を上がっていった。
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