序章  1947年 マイナス16 

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「やったのか? おい、やったのかって……」 「もう大丈夫ですよ。しかしまったく、なんなんだあいつは……?」 「いきなり俺を撃ってきやがって……くそっ……」  そう言って、若い方のヤクザが少女の後方から姿を見せた。 「とにかく、どこの組のもんだか突き止めて、きっちりカタをつけさせます  よ」  年若に答える男の方は、少なくとも彼より十歳以上は年上に見える。  しかしその序列は年若の方が上らしく、常にその受け答えは丁寧だ。  二人は少女のことを忘れたように、うつ伏せに倒れた男に目を向けている。  さらにその時、少女がそおっと後ずさり、  踵を返して走り出そうとした時だった。  「おっと、逃げなくたっていいじゃねえか!」  あっという間に年若が駆け寄り、少女の前に立ちふさがった。 「好裕さん、いい加減にしてください……」 「いいじゃねえか金子……見てみなって、けっこうな上玉だってこいつ……」  さっきまで泣きそうだった好裕という名の年若が、  まさに下卑た笑いを見せていた。  一方金子と呼ばれた方は、年若の声には答えないまま、  8×22mm南部弾をぶち込んだ男へ近づいていく。  年若もそれを見て、少女の腕を引っぱりその後を追った。  いよいよ本降りとなった雨の中、  三人並んで倒れ込んだ男を見下ろしている。  一目見て、死んでいると感じる。  そのくらい大量の血液が、雨水と混じり合って辺り一面に広がっていた。    すると年若の口角がニュッと上がり、片足を男の肩口まで持っていく。 「このやろう……」と呟いて、男の後頭部を蹴り上げようとしたのだろう。  残った脚を後ろに反らし、一気に前方へと突き出した。  そうして足先が円を描き、まさに男の頭に触れようかという時だ。  天を向いていた男の後頭部がクルッと動いた。  同時に首から下も、スッと地べたから浮き上がる。  一気に腹の銃創が上を向き、雨水にまみれた顔が露になった。  となれば当然、年若の足先は空を切り、そのまま真後ろにひっくり返る。  その瞬間、もう一方の動きは素早かった。  瞬時に銃のスライドを引いて、同時に指先がトリガーに触れる。  ところが銃を振り上げようとした時だ。  倒れ込んでいく年若の足が、男の腕を蹴り上げてしまった。  「パン」という音が響き渡って、  天空を向いた十四年式拳銃から蒸気のような白煙が上がった。  そんな一瞬の隙を突き、仰向けになった男が反撃に出る。  その目がカッと開かれ、握られたままだったトカレフが宙に浮き、  きっかり二回火を噴いた。  少女が我に返った時には、三人ともが倒れている。  仰向けになったトカレフの男も、身動き一つしないままだ。  さらに後から倒れ込んだ二人が今にも動き出しそうで、  少女は恐怖に動くことさえできないでいた。  それでも、あと何秒間か何事もなければ、  きっと走り出していただろうと思う。  
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