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「やったのか? おい、やったのかって……」
「もう大丈夫ですよ。しかしまったく、なんなんだあいつは……?」
「いきなり俺を撃ってきやがって……くそっ……」
そう言って、若い方のヤクザが少女の後方から姿を見せた。
「とにかく、どこの組のもんだか突き止めて、きっちりカタをつけさせます
よ」
年若に答える男の方は、少なくとも彼より十歳以上は年上に見える。
しかしその序列は年若の方が上らしく、常にその受け答えは丁寧だ。
二人は少女のことを忘れたように、うつ伏せに倒れた男に目を向けている。
さらにその時、少女がそおっと後ずさり、
踵を返して走り出そうとした時だった。
「おっと、逃げなくたっていいじゃねえか!」
あっという間に年若が駆け寄り、少女の前に立ちふさがった。
「好裕さん、いい加減にしてください……」
「いいじゃねえか金子……見てみなって、けっこうな上玉だってこいつ……」
さっきまで泣きそうだった好裕という名の年若が、
まさに下卑た笑いを見せていた。
一方金子と呼ばれた方は、年若の声には答えないまま、
8×22mm南部弾をぶち込んだ男へ近づいていく。
年若もそれを見て、少女の腕を引っぱりその後を追った。
いよいよ本降りとなった雨の中、
三人並んで倒れ込んだ男を見下ろしている。
一目見て、死んでいると感じる。
そのくらい大量の血液が、雨水と混じり合って辺り一面に広がっていた。
すると年若の口角がニュッと上がり、片足を男の肩口まで持っていく。
「このやろう……」と呟いて、男の後頭部を蹴り上げようとしたのだろう。
残った脚を後ろに反らし、一気に前方へと突き出した。
そうして足先が円を描き、まさに男の頭に触れようかという時だ。
天を向いていた男の後頭部がクルッと動いた。
同時に首から下も、スッと地べたから浮き上がる。
一気に腹の銃創が上を向き、雨水にまみれた顔が露になった。
となれば当然、年若の足先は空を切り、そのまま真後ろにひっくり返る。
その瞬間、もう一方の動きは素早かった。
瞬時に銃のスライドを引いて、同時に指先がトリガーに触れる。
ところが銃を振り上げようとした時だ。
倒れ込んでいく年若の足が、男の腕を蹴り上げてしまった。
「パン」という音が響き渡って、
天空を向いた十四年式拳銃から蒸気のような白煙が上がった。
そんな一瞬の隙を突き、仰向けになった男が反撃に出る。
その目がカッと開かれ、握られたままだったトカレフが宙に浮き、
きっかり二回火を噴いた。
少女が我に返った時には、三人ともが倒れている。
仰向けになったトカレフの男も、身動き一つしないままだ。
さらに後から倒れ込んだ二人が今にも動き出しそうで、
少女は恐怖に動くことさえできないでいた。
それでも、あと何秒間か何事もなければ、
きっと走り出していただろうと思う。
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