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蝉が鳴く季節だった。
十三の私は今日、母を失った、蒲公英のような温かくて母性溢れる人だった。残酷な事に、抗争に巻き込まれ重傷を負い若き命を落としてしまった
「お、かあ…さん……」
じーんと鼻の奥が痺れるほど熱い涙が零れて、ただひたすら母を呼んでいた。畳に大粒の涙が染み込んで、その様子を離れた所で見つめていた男達。派手髪に似合わない喪服。少女が泣く姿を見て、顔を下に向けて息を殺していた。
「……澄麗、そろそろ詩織はいかなきゃならねぇ」
母を奥さんでも嫁でも家内でもなく、名前で呼ぶ辺りは愛していた事が伝わる。けどこの人は守れなかった。大正時代にいそうな色男は立ったまま、足を崩している私の頭をポンポンと撫でる。
____________いら、ない
つい最近まで好きだった父の大きな愛溢れる手、私の頭を今撫でる余裕があるのなら、大きく泣いて、眠っている母を抱き締めてよ、何故そんなに凛としているの、組長だから?後輩達が見てるいるから?
わなわなと頭に怒りが昇って、いつの間にか父の手を振り払っていた。
「お父さんなんか嫌い!大っ嫌い!どうしてお母さんを守れなかったの?!強いって言ってたじゃん……家族を守れるくらいの力はあるって……」
黙り込む父に余計に苛立って口が止まらない
「ヤクザ何て嫌……普通の家に生まれたかった……ヤクザなんか家族を作らない方がっ……!」
視界に影が映り込んで、衝撃で尻をついた。
じわじわと頬が痛くなった、恐らく赤く腫れてしまっているのだろうと、頬に手を置く。初めて父に打たれた、容赦のない一撃、余計に不信を抱く。
「命懸けで産んだ詩織に失礼だろ、組の侮辱は許さない……少しは頭を冷やせ」
この言葉で涙が止まったが、この瞬間私に嫌悪感が溢れ「こんな奴らと違う道をゆく」と確信した日でもあった。
そして幼い時から世話役として慕っていた若頭の碓氷も信じられなくなった、打たれた時ただ父の背後で見つめて助けてくれなかった。
_____________ヤクザなんか嫌い、一生恨んでやる
この出来事が発端であり、あれから数年は経つ
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