師の心に棲む夜叉

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「頼むよ、何かあった時は」  けれども冗談として流すことなく、そう付け足すのを忘れない。 「ーー承知しました」  それに返せる言葉は、これしかないだろう。しかし、晴明の心は、ざわざわとざわめき続ける。  そして、囚われてしまったことに気づいた。保憲の中に棲むという夜叉にーー 「貴方を超えなければ、俺が調伏されるってことか」  さらなる上を。それが出来るのは晴明だと、夜叉は告げたのだ。そしてそれが出来なければ、教えた秘術とともにその魂を消すと。 「厄介な化け物ですね」  ようやく出たいつもの弟子の軽口に、保憲は満足げに笑った。  今や政治を動かすことも可能な陰陽寮。そこを掌握する師弟。どちらの心にも、今や平等に夜叉が棲み着いた。  この場は、他の誰にも渡さない。保憲と晴明、共に稀代の陰陽師と呼ばれる二人が完全に掌握し続ける。そのためには、互いを調伏することさえ厭わない。そんな、悪魔の囁きに是と頷いたのだ。 「正しくあるには、ちゃんと悪でもないとね」  保憲の言葉に、晴明は静かに頷いた。その後はまた、望月を眺めつつ酒を飲むばかりだった。
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